「オブローモフ」が無気力・怠惰・沈滞の象徴人物として有名らしいのですがそれも始めて知った。
その名前の主は長編『オブローモフ』の主人公。こちらはその第一部第九章を独立させて文庫化したものだそうで、この部分は長編を書く前に発表されたので長編の土台のようなものらしい。
長編『オブローモフ』は怠惰な独身貴族オブローモフの怠惰な人生、そしてこの『オブローモフの夢』は、彼が寝床でゴロゴロして見た子供時代の情景になっている。
『オブローモフの夢』
イリヤ・オブローモフは領地のオブローモフカの村を夢に見ている。ここは緩やかな大地で気候も穏やか、人々も刺激を好まず暮らしている。例えば手紙が来ても「悪い知らせだったらどうするんだい」と数日放置、やっと開封して「返事をかかなきゃ。…今日こそ書くぞ。…今日こそ机に向かったぞ」でそのまんまになる。道に誰かが倒れていても「よそ者だったら放っとけ、手間が増える」でそのまんま。知識も知恵もない方が良い。村の人達は昼食後に昼寝をする。お屋敷も、村も完全に時間が止まる。…大丈夫か?(^_^;)
そんなイリヤ・オブローモフは幼少期から母や乳母に過保護に過保護に過保護に育てられた。「走っちゃ駄目よ!ぶつかって怪我するわ!」「太陽が出ているんだから家に入りなさい!疲れちゃうでしょ!」「学校?あと三日でお祭りなのに?三日間休んじゃいなさいよ」という感じ。…大丈夫か?(^_^;)
学校というのは、隣の領地のドイツ人シトリツ氏の開いているもので、息子のシトリツとは大人になってからも友達。過保護により無気力・停滞のオブローモフを活力ある生活に導こうとするがうまくいかないらしい。(これは『夢』以外の部分の話)
こんな「自分でなにかしちゃいけない」「領地からの収入で、仕事しなくていい」環境にあったオブローモフは、すっかり怠惰で無職で独身のまま停滞し日々を送るのでした。
本書の後半は長編『オブローモフ』の抄訳が収録されている。
オブローモフのような地主は、土地管理は管理人に任せて自分たちは都会で暮らす。彼も領地の上がりで暮らせるため、仕事もあっさり辞めて一日中ベッドでゴロンゴロンゴロンゴロンしているオブローモフ。怠け者ってだけじゃなく、ベッドから起きる必要がない。何もしないことこそ自分の人生、自分の求めるもの。召使サーハブもモノグサで家はすごく汚い。(何らかの病気になってると思う…)
でも管理人から「領地の収入は少なくなっている」との連絡もあり、自分も家賃も滞納しているので、本人が思っているほど余裕ないんじゃないの?そうだとしてもオブローモフはどーでもいい。そんな彼でも友人が誘いに来る。面倒臭いので断る。悪友に金をたかられたりする。
幼馴染のドイツ人アンドレイ・シトリツは、そんな彼を動かそうとする。シトリツは活動的で合理的。「労働こそが人生の目的」と考える。
シトリツはオブローモフにオルガという女性を紹介した。オブローモフは彼女に熱烈に恋をした。この「自分は恋をしているのか!?」のあたりは抄訳ながら文章が生き生きしていた。引きこもりだったオブローモフは、散歩して、読書して、外見は生き生きとしていく。
さあオブローモフ、生者の世界に入ってゆくのか!?
…いえ、失恋しました。
オブローモフは停滞。オリガは前進と生命力。オブローモフは、彼女が愛しているのは理想の自分であり、自分が現実の結婚生活を送ることができるとは思えない。
また引きこもるオブローモフは、彼にたかるタランチエフとイワン・マトヴェイチに領地の上がりのほぼ全部を毟り取られる。そしてイワンの妹で子持ち未亡人アガフィアの家に下宿する。アガフィアは考えが足りず体もずんぐりしているが、階級が上のオブローモフに憧れ甲斐甲斐しく世話を焼く。
さて、元婚約者のオリガはアンドレイ・シトリツと結婚して、全てを話し合え、喜びの人生を楽しんでいた。しかし年月が経つにつれ、オリガも以前のように常に前に進むことができなくなる不安を持つようになっていた。それでもともに行きてゆくシトリツとオリガ。そして二人は人生に沈んでいるようなオブローモフを気にかけてゆく気持ちを持ち続けている。
シトリツがオブローモフを訪ねた時に、オブローモフはアガフィアとその子供たちと、貧しくも(本当は大金持ちのだが、全部たかり取られているので)小さな小さな幸せを送っているようだ。あまりの貧しさに驚いたシトリツは、オブローモフにたかっていたタランチエフとマトヴェイチを追い払う。
だがもうオブローモフは沈滞から浮上することはできない。そのままダラダラ生きて死んだ。
二人の間にはアンドレイという息子が生まれていた。シトリツとオリガはアンドレイを引取り(アンドレイ、はシトリツの名前から取った)り養育する。アガフィアは「私は身分が違います」と質素な生活を続けた。
なぜオブローモフは、純粋で、優しく、子供の頃は闊達で、上品で、頭だって悪くないのに破滅してしまったのか?
「オブローモフシチナさ。」