今、最もホットな半導体業界で圧倒的な成功を収めている会社の勝因研究である。30年間この業界とこの会社を見てきた台湾の著名ジャーナリスト林宏文が満を持して書き上げたTSMC分析の傑作だ。
アメリカと中国のデカップリング、’22 米CHIPS法施行、コロナによるサプライチェーンの綻びなど地政学的要因で、台湾のTSMCは半導体の受託製造工場をアメリカや日・欧に分散することを始めた。米アリゾナ州、日本の熊本、シンガポールやヨーロッパなどへ莫大な補助金付きの本格的な工場進出である。
かつて日本の半導体産業は世界を席巻しアメリカとの貿易摩擦で衰退したが、日本は大企業の一部門として設計・製造・製品と垂直展開する事業構造であった。
1980年代、台湾政府は大陸中国を視野に入れた世界目線で製造請負の受託製造業=「ファウンドリー」モデルを作り上げた、それは巨大な設備投資とスピードで圧倒的な競争力を発揮する。
又、台湾出身でアメリカで学び競争を勝ち抜いた人材を呼び戻し、国策として半導体産業を育成した。
1987年TSMCが台湾政府とモーリス・チャンの出資で設立された。彼はUMC(’85設立)のようなIBMからの技術導入策はとらず、自社工場での自前開発にこだわり、今では蘭ASMLの最先端製造装置(UMC 240億円)を使いこなせる唯一の企業でiPhoneの半導体を殆ど供給している。ファウンドリーモデルをサービス業として徹底し、先端技術へのこだわりがこの会社の勝因であった。
今進めている工場の世界展開ができれば、iPhoneはもとよりAIやEVなど今後の半導体の爆発的需要を取り込むメーカー密着・多用途対応・グローバル展開の新しいステージに進化する。大陸中国の欠損を埋めて余りある。
社員のハードワークは、かつての日本の技術者や労働者の働きを見ているようだ、いつの間にかお株を奪われた、日本人は働かなくなった。
国の本気度や経営者のアメリカとの結びつきの強さ、地政学戦略の把握やマーケットの最新動向の感応度、人材を育成する体制など学ぶことは多くある。
従来読んだ数多くの日本企業物に較べて、地政学を踏まえて会社の内情・業界や技術を長年の密着でよく知った上で深く分析している。
大型機のIBM、PCのMS(Intel)のようにiPhoneの半導体はTSMCという立場を確立したが、今後のAIやEVでもNVIDEA など各メーカーに圧倒的なシェアの供給を続けることができるかがポイントである。
韓国も台湾と地政学的に似たところがあり、サムスン、SKハイニクスのHBMなど後工程の技術開発動向も要注意だ。課題はいろいろあるが、当分はTSMCの優位は揺るがないことがよくわかる。
翻って再起を期す日本は、熊本工場はSONYのCMOSイメージセンサーとトヨタのEV用途と顧客がはっきりしているのでそれなりの勝算が見える。
一方、期待の千歳のRapidusの動向が気になる。IBMに100人超の技術者を送り込んで、2ナノを‘27年までに開発するとしているが最終顧客をどうするか。TSMCとは異なるオールラウンド顧客対応の多品種少量生産のファウンドリーというが、それを実現するには、TSMCが乗り越えてきた壁以上のものと日本人の真面目さ・器用さ・丁寧さ・粘り強さを如何に発揮できるかが勝負だ。小池社長をはじめ、かつての栄光を背負った技術者達が集まっているが、過去の成功体験を捨てられるか、どれだけ台湾TSMCの軌跡に学べるか。
易しく要領よくまとめてある林宏文のこの論考はポイントをついている。半導体事業経営の教科書にもなりうる内容の傑作だと思う。
この業界で三週回遅れの追撃は決して簡単ではない。
しかし、今を置いたら永久に日本のチャンスはない。
健闘を祈るだけである。