ひょんなことから、妻45歳夫56歳で自然妊娠した夫婦のエッセイ。
著者は産経新聞勤務の夫。
さすが、新聞社の編集長だけあって文章がかなり上手くて読みやすい。
子供はもう諦めていたというご夫婦は、宵越しの銭は持たない主義で、仕事に打ち込み飲みに行き、小銭が貯まれば海外旅行で散財していたそうな。
しかし
...続きを読む、思いがけず妊娠したことで生活は一変。
今後の教育費のために外食は慎み、もちろん旅行も控えたそうな。世間ではコロナ感染拡大の頃だったからちょうど良かったらしい。
全体を通じて感じるのは、戸惑いよりも、妻と産まれてくる子供への深い愛情。
妻への気遣いや、各種ウイルスの感染対策もかなり入念に行っていた様子。
妊婦は免疫が弱っているというが、なぜ弱っているのかというと、胎児は夫の遺伝子も受け継いでいるため、妊婦にとって胎児は実は異物。
異物を攻撃させないため免疫が弱っているのだとか。
だから、妊婦以外だったら軽症ですむ風邪も重症化しやすく、生モノにも当たりやすくなる。
そんなこんなで、感染対策には気を遣っていたのに、妻がおたふく風邪に感染して入院することに。
そして、入院後、心筋炎になり転院。なんと妊娠7か月で緊急帝王切開をすることに。母子ともに救うためにはこの選択肢しかなかったそうな。
大げさではなく文字通りの命がけの出産の箇所は涙なしには読めなかった。
突然のことに戸惑い、絶望し、それでもなんとか気力を保たなければと必死に足掻く著者の心中が読み取れた。
「今日明日のどちらか」と言われて「明日」という選択をしてろくなことはないという指摘はとても身に沁みた。
確かに長い人生を考えた時に、24時間の差は大したことないが、今目の前に起きていることに向き合うという考えに立つと、24時間というのはいかようにでも状況は変わってしまう。今後の人生の教訓にしようと思った。