元最高裁判事である著者が、執筆時点で判決が出ていた5つの地裁の憲法判断を検証し、また、米国の同性婚認容判決や過去の日本の最高裁大法廷判決の積極的司法の先例をヒントとして参照しつつ、同性婚を認める方法が憲法の解釈・適用として可能なのかどうかを検討。
憲法訴訟に最高裁判事として実際に携わってきた著者が安
...続きを読む全圏から一歩踏み出して私見を世に問う意欲作であり、とても刺激的な内容だった。同性婚訴訟の5つの地裁判決についてもよく整理されていて、同性婚についての憲法問題を考える上で非常に勉強になった。
著者の結論の一つである「同性婚も憲法24条の婚姻に含まれる」という憲法解釈は、率直な文理解釈では確かに無理があるが、憲法変遷という考え方や本条の立法趣旨を踏まえると、そのような憲法解釈も十分成り立ちうると考える(実際、本書刊行後に出された札幌高裁判決は、これと同じような憲法解釈により同性婚を認めていない諸規定について違憲判断を下している)。
他方、憲法13条や14条の関係で、婚姻とは違う形にしても同様の法的利益を享受し得る登録パートナーシップ制度の導入は憲法上の要請であり、その際は憲法24条2項を「類推適用」すべきであるというもう一つの解釈のほうが憲法解釈としては理解しやすいと考えるが、著者も検討しているとおり、登録パートナーシップ制度の導入がゴールとなってしまうことは、実質が婚姻に近いものになったとしても当事者にとっていかがなものだろうかとは思う。
国民の間に政治的対立があるような問題について、政治的基盤を持たない司法が違憲判断をして制度変更への道筋をつけることは適切ではないという意見はよく聞かれるところで、一理あるとも思っていたが、本書を読んで、政治的対立のある問題について政治的・社会的閉塞状況が生じている場合に、政治的対立から離れた法原理機関である司法が、社会全体の機運も汲み取った上で、憲法の理念を踏まえて解決に乗り出すということもあってしかるべきではないかと感じた。