以前、2021年の夏、インディーゲームの実況をしていたソーシキ博士が、小説すばるでインディーゲームに関する連載を始めるということで自分も小説すばるを購読し始めたんだった。
ずっと続くのかと思っていたのに一年ほどで終わってしまっただけでなく本人も活動を休止してしまって、実況データやTwitterなどを
...続きを読む消去して、現世とのつながりを全て断ち切っておやすみに入ってしまったのでそこそこ心配していた。
と思ったら突然この連載が本になる、しかも専用のTwitterアカウントまで開設して宣伝しだしたのでおやすみが終わったかと一瞬思ったが、そういうわけではなかった模様。まあ、それは別にいいけど。ゆっくり休んでもらいたい。
描き下ろしである3編では、インディーゲームに関する話と同時に著者のおやすみの間の話が語られており、ちょうど活動を休止してからの説明が少しあったのでちょい安心。
それはさておき本編についてだが、仕事の関係でインディーゲームにはそこそこ詳しいと思っていた自分でもほとんど知らないような、そして確かに(色んな意味で)おもしろいゲームを数限りなく発掘してくるソーシキ博士のどことなく切ない文体で、ゲームたちとソーシキ博士の関わりが語られる。
橋の上から飛び降りる自殺者を止めようとするゲーム、オンライン美術館でプレイヤーが好きな絵を描きその絵を別のキャラクターが手を加えることができるゲーム、ウクライナで戦争が始まったために完成前に配信が開始したゲーム、色んな人が作った「俺のマリオ」ゲーム、未来のタクシー運転手となり色々な客を運ぶゲーム、父に本をプレゼントしようとするゲーム、10分10ドルで注文を受けて作られるゲーム、コロナで会えなくなった友人たちが協力して作った、手紙を部屋の中に隠すゲーム、なぜか数限りなくあるトイレシミュレーションゲーム…
世界中で作られる千差万別すぎるゲームに真摯に向き合い、それぞれが持つメッセージを大事に受け取ったり、メッセージ性が特にないかも知れないゲームを普通に楽しんだり…
正直、意表を突くゲームすぎたり、結構内容が重いゲームが多いため遊んでみたいと思うゲームはそこそこ少ないが、そんなゲームがあることを紹介してくれてありがとうという気持ちになる。これはまあ、実況の頃と同じ感想になってしまうのだけれど。
遊ぶ遊ばないは別にして、気になるゲームがたくさん紹介される。
まず宇宙にファックユーするだけのスペースファックはとにかく良い。もはやゲームじゃなくてインタラクティブアート感というかブラクラでは?という感じがするけど。挿絵もスペースにファックしてて良い。
hospiceもつらいけど、とても良くゲームに落とし込んだ感じがして非常に良い。自分で遊ぶ勇気はないが。
Forgottenも、振り向くとオブジェクトが増えているというホラー的なシステムを、「アルツハイマーだからそれまで忘れていただけ」という、とてもリアルな表現方法に使っていて素晴らしいゲーム。調べてみたら今もまだ作っているらしい。完成するのか…?
Neocabは絵が濃いけど一度遊んでみたいゲームではある。
しかしソーシキ博士のすごいのは、ゲーム発掘の嗅覚だけではなく、気になったときは作者に直接連絡して実際に会話したり、ゲームの詳細を聞いたりゲームを作ってもらったりするその行動力だと思う。
こういうゲームのデベロッパーのほとんどは海外在住なので、日本人から感想が来るどころか詳しい話を聞きたいという要求が来るというのはめちゃめちゃ珍しい経験だと思う。偏見かもしれないが、そういうデベロッパーはだいたい作りたいものを作ってネットに流しているだけなので、感想が来たらもちろん嬉しいけども、それを期待しているわけでもない。多くのゲームは販売してすらおらず、無料で配られているものだし。そんな中、突然日本から連絡きたらビビるだろうなぁ。でも嬉しいだろうなぁ。
ちなみに小説すばる自体は去年の終わりまで毎月読んでいて、結構色々な両作品と出会えたので、そういう意味でもソーシキ博士には感謝している。