タイトルの「ガラム・マサラ」はインドのミックススパイスを指す。ガラムが「熱い/辛い(hot)」、マサラが「混ぜ合わせる」を意味する。本書原作は英語で書かれており、出版時のタイトルは”How to Kidnap the Rich”なのだが、元々は”Garam Masala”のタイトルがあてられていたという。邦題はこちらを採っている。ラメッシュが父の下でチャイ用のスパイスを用意させられていたことを思い出させるとともに、さまざまな要素が混ぜ合わされた本作自体を連想させるようでもある。
ミステリともクライムノベルとも言えそうなストーリーの根底には、インドの階級社会や受験戦争などの時事問題がある。下層階級からのし上がっていくのは容易なことではなく、だが一方では堕落した金持ちの暮らしがある。ラメッシュは事件の過程でバラモン階級の女性に恋をし、一時は甘い夢も見るのだが、さて、この恋は実るだろうか。階級の壁を超えるのは、想像以上の難事のようである。