人口は減少、GDPは殆ど成長なし、貿易黒字は過去の話、過去に投資した配当で生きながらえている「日本」の問題点を指摘する本は多く見かけますが、「日本は復活できる、その根拠はこうであり、この分野を伸ばすべき!」という本は、あまり見かけなくなりました。そのような主張を展開していた著者の方が高齢になり執筆活動を終えられてカモしれませんが。。
そんな中、歴史を振り返って、日本がなぜ発展できたかの考察に始まり、現在世界においても優秀な技術はこれである、と明確に書いてあるこの本は読んで気持ち良かったです。米国に倣って、軍事経験者(自衛隊退官車)を有効活用せよ、とも述べられています。
米国には多くの問題があると指摘されている中で、それでも強い力を保っているのは、軍隊を除隊した人が多くの企業・政府関連機関の重要なポストで活躍しているというのも事実のようです。日本を振り返ってみれば、明治維新も太平洋戦争後も、軍隊経験者(江戸時代の武士、明治維新以降の国民皆兵により武士以外も)が活躍していると述べられていました。分厚い本でしたが、読み応えがありました。
以下は気になったポイントです。
・米国の中立政策によって「戦争特需」の始まりであった、しかもこの政策は、20世紀末の冷戦が終了するまで続いて、米国を世界一の経済大国へ押し上げ続けた影の要因になった。さらに、米国が英語を公用語としたため、英国からの移民以外は皆、英語を学び子供達も英語を母国語とするべく教育された。それにより英語圏以外の源と地域同士でも英語によるビジネスが行われるようになった。米国は、独立宣言1776年から1820年頃までは農業国家であり、かつ地方分権の強い国家であったが、1823年(モンロー・ドクトリン=不干渉、非干渉、非植民という中立政策)を契機として中央集権の工業国家へと大きく舵を切った(p25)
・日本は戦国時代から軍人は戦場で勇敢に戦うことこそが本務とされていて、輸送・衛生・調理・斥候・スパイ活動に従事する者は、兵士に比べて一段低く見られていた。この風潮は第二次世界大戦でも日本軍を支配し、洋上で敵の輸送船部隊を見ても、わざと見逃す挙に出ていた。一方、米軍の潜水艦は危険を伴う日本の軍艦は攻撃せず、空軍による空からの攻撃に任せ、輸送船のみを徹底的に狙って日本の「兵站能力」と「数」を減少させていった(p27)
・日本が開国してわずか50年で世界の列強となったのは、国民皆兵によって男子の多くが徴兵されて「胎内教育、訓練、演習、実践」などの軍務を経験したことである。徴兵された一般兵士たちの多くは退役後、大中小の民間企業に就職していった、特に徴兵制によって軍隊勤務を経験した農民や町民などの一般市民は、軍隊経験をすることで武士的気概を持って、近代的労働市場である会社で一生懸命に働いた、徴兵制で軍人になると「帯刀の上に銃」を持たされたことで、いわば「武士」になれたと感激した(p32)
・戦前、士官学校に入って軍事教育を学んでいる間に終戦を迎えたために戦場に出ることなく企業に就職した者も士官学校在学中に学んだ「安全保障論、戦略論、統率論、戦史、外交史」などが企業の危機管理、経営上の戦略的思考に役立ち、企業収益に大いに貢献した、小企業を中企業に、中企業を大企業に発展させる結果まで生んでいた(p33)
・現在の日本経済が30年以上にもわたって停滞を続けている理由の一端は、旧軍の関係者がいなくなった1980年以降、軍事から得られる危機管理・情報収集・戦略的思考などが欠落してhしまったからである。更に重要なことは、日本の企業経営者は経済活動の中から得られる「数字」を徹底的に分析することを怠っている。経営陣、社員数、原材料費、商品数、物流経費、宣伝費、ライバル企業など、あらゆる数字に関する分析を徹底的に行う必要がある。米国の企業経営者達は、戦前も戦後も「数字」に徹底的にこだわってビジネスモデルを作り上げている(p37)
・米国企業の経営陣には多数の退役軍人が入っているが、彼らは押しなべて軍事と科学技術と数字に通暁している、だが日本の大手企業経営者や経営陣は、軍事技術の知識や理系知識をモノにしている人は極めて少ない、経営陣の多くは文系で、理系の人に対しては、工場がスムーズに動いてくれればOKという程度の感覚である(p44)
・数年前から「生成AI」「ChatGPT」の技術の発展は、日本の経済界にとってはまさに救世主的存在である。生成AIとは、データのパターンや関係を洗い出し、新しいコンテンツを生成することを目的とするAIで、従来のAIとは異なって、その精度、学習量、スピード、使いやすさに優れている。ChatGPTは、情報収集や分析のヒントを引き出すことができ、ビジネス分野(医薬品業界、水素燃料開発など)に欠かすことので着ないツールである(p65)
・日本でピラミッドではないかとされる山は9つほどあると言われるが、そのうちの1つである秋田県にある「黒又山」は高さ280メートル(7−10段の階層)、広島県庄原市の「葦嶽山ピラミッド」は世界最古のピラミッドと認定された(p77)
・ノーベル賞は受賞せずとも、日本人は自らが開発した諸々の技術を特許も取らずに世界に無償で与えている、QRコード、カラオケ、魚群探知機など。日本における学者の業績の評価基準は「論文の内容と数量」であるが、欧米ではこれにプラスして「他学者による論文の引用数」を高く評価している、しかしながら、被印欧数は論文の「独創性」とは無関係である(p91)
・これからの世界を動かしていく技術は、日本に限って言えば、1)水素エネルギーをいかに獲得するか、2)輸出入の貿易をメインとする物流の方法、3)人手不足を補い労働生産性に貢献できる各種ロボット、4)外国人観光客への対応、5)気候変動による各種災害を防ぐ防災技術、6)戦争や争いを防ぐレーザー技術、7)難病、危険な病気を治す技術や医薬品、である(p99)
・今後開発すべき10分野の研究開発部門は、相互に関連する分野もあるので四つに集約できる、1)エネルギー・燃料・輸送用エンジン、2)巨大宇宙船、極超音速旅客機、3)巨大潜水貨物船、燃料、4)ロボット、地上建設用、海底掘削用、防災用(p117)
・2023年4月に、佐賀大学の嘉数教授は、従来のシリコン半導体に変えて、人工ダイヤモンドを使った半導体を世界で初めて開発したと発表した、5倍の高温で動作し、33倍の電圧に耐えることができ、宇宙産業に必須な半導体である(p119)
・アンモニアを燃料として燃やして発電する方法、2019年に東大工学部の西林教授が、世界で初めて、常温・常圧の下で、窒素ガスと水からアンモニアの合成に成功した。圧縮空気内の酸素分子から窒素分子を分離するコンプレッサーと、窒素発生装置さえあれば、窒素ガスを24時間無限に供給できる。既存の火力発電にアンモニアを混ぜれば発電ができ、石炭を使いながら電力を得ることができる。水素ガスも大量に得られる(p125)若干でるCO2は分離回収技術が進んでいる(p128)アンモニア発電によって、液体水素が開発利用できるならば、自動車などは新たなエンジンを開発するだけで良いので、1200万人に及び就業者たちは職を失うことなく働き続けられる(p137)
・日本におけるEVの普及が進んでいない最大の理由として、自宅やマンションでの普通充電が普及しなかったこと、特に、マンションや月極駐車場での充電設備ができていなかったことが大きい(p134)
・宇宙船が地球に帰還する際に地球の空気層を通過しなかければならないが、その時の摩擦熱は1700度、4分間、この高熱に耐えられる技術は日本しか保有していない。日本は巨大宇宙船を造るチャンスなのである、欧米ロ中が旅客機型あるいは艦艇型の宇宙船を造ることができないのは、大気圏再突入を完全に通過できないから(p152)小惑星探査機「ハヤブサ1号」は2010年6月、7年余りの旅を終えて地球へ帰還した、燃料を使い果たしたため大気圏再突入の際に安全と言われる1700どの高熱で住む角度からの突入ができなかった、4分間にわたって3000度以上の高熱域に突入したが、この高温に耐えて指定した地点からわずか700メートル離れた場所に無事着陸した(p153)
・世界的物流構造は、1946年台のシステムが運用されたまま、航空輸送と異なって「気象状況・海洋状況・労働状況・疫病のパンデミック・港湾スト・軍事紛争状況」が大きく関わるために、20世紀のままの状態が続いている(p177)北極海の深海を巨大潜水貨物船を使うと、20ノットの場合、横浜ー英国を現在の40日から11日で可能となる(p181)
・2023年10月に防衛設備庁は新たに「レールガン」の開発に成功したと発表した、電磁気力で物体を打ち出す装置である、従来の火砲を大きく超える高速度で弾丸を打ち出すことができるもので、護衛艦や大型トレーラーに設置できる兵器としては世界初めてである。レーザー兵器はレーザービームを敵のあらゆる兵器に照射して、兵器機能を破壊してしまうもので、その速度は光とほぼ同じ1秒間に30万キロである、弾道ミサイルは27キロなのでレーザー砲には全く歯が立たない(p206)
・アメリカ経済社会の中核は、陸軍・海軍・空軍・州軍の退役者たちで占められている、要するに軍人社会といっても過言ではない。(p310)
2024年6月27日読破
2024年6月30日作成