中島賢二の作品一覧
「中島賢二」の「真昼の暗黒」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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「中島賢二」の「真昼の暗黒」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
Posted by ブクログ
スターリン政権下の粛清裁判「モスクワ裁判」の、特にブハーリンをモデルにした政治/心理小説。
スターリンは自らの政権の正当性を誇示するために、かつての党古参メンバーに次々と反革命的陰謀の疑いを着せて処分していった。そして奇妙なことに、これらの古参党員は皆、起訴内容を全面的に認めて処刑されていった。
彼らは何故、公には弁明をせずに罪を受け入れたのか。
それをテーマにした小説である。
テーマが上記の通りなので、作品は最初から終わりまで独房のなかでの、主人公ルバショフの思索と、現政権の尖兵たる審問官との対話を中心に繰り広げられる。
本書を読む限り、共産党の政治信念は、道徳的・感情的な判断を排除し徹底的に論理的に物事を考えること、そして「一人称単数」を否定し「われわれ」を主語として物事を考え社会の発展を何よりも是とすることから成り立っているようだ。
ルバショフは、初めこそ自身の信念に自信を持ち、いまの政権は党が本来目指す未来に対し誤りを犯していると考え、行動していたと思われる。目指している方向は同じはずなのに、論理的に導き出した政策方針は党と食い違っていたのである。
しかし、思索と対話を重ねるなかで、どのような政策が論理的に正しかったかは将来において決定するものであり現在それを特定することはできないことに気づく。また、信念を実現するべく生き延びるために、自らの周囲の関係者を犠牲にしてきた己の行動は、本質的に党の論理と何一つとして変わらないことに気づいたのかもしれない。
自分の方針と党の方針のどちらが正解とも特定できないのであれば、与党である現政権の方策に従い一枚岩で将来に突き進むのが論理的に正しい、つまり「われわれ」の論理に立ち返ることが正しいこととなる。
ルバショフに向けられた見せしめ効果を高めるためにでっち上げられた起訴の内容(要人暗殺や海外勢力との結託)は全く正しくないとしても、党に反する考えを抱いたことは反革命的だと認めざるを得ず、結局は殆どの細部も含めルバショフは自らの罪を認め、処刑を受け入れることになる…。
私の理解した限りでは上記のような流れであった。(自信はない)
また、作中で主人公が思案した「独裁が成立する条件」(相対的な政治成熟度の低下……ある大きな技術革新があると、それに馴染み、市民がついていけるようになるまで、世の中の動きに対して相対的に無知になり、そこに独裁が割り込む余地ができる。逆に市民の理解度が高まった時に民主的な政治が成り立つ…。いまは過渡期なので共産党による独裁による導きが必要である…。という理屈も興味深かった。
最後は、目的があらゆる手段を正当化する、というそもそもの基本スタンスが誤っていたことに気づくのではあるが…
もはや歴史のなかに縮小しつつある共産主義政党の論理や、意外にも身体的な拷問は(表向きには)禁止されていたことなど、本書で初めてじっくり触れ、歴史の教科書の文字面だけでは知り得ない内側を臨場感を持って覗きみることができた。そういう意味で、今なお貴重な存在感のある作品のように思う(他にもあるのかもしれないけども)。
Posted by ブクログ
アーサー・ケストラーの『真昼の暗黒』は、スターリン時代の全体主義体制における思想と良心の破壊を、当事者の内面から克明に描いた作品である。かつて革命に命を捧げ「党」の高位にあった主人公ルバショフは、自身が粛清の対象となったことで長年信じてきた理念の矛盾と向き合うことになる。彼は支配の論理と操作の手法を知り尽くしており、自らも「銃殺されるだろう」と語るほどに、その運命を静かに受け入れている。『1984』の主人公ウィンストン・スミスのように抵抗を試みる市民とは異なり、ルバショフの姿勢は冷徹かつ自省的であり、まさにスターリン体制を支持していた当時の知識人の懊悩を象徴しているように感じられた。特に終盤、隣室(402号室)の囚人から「何をしたい?」と問われたルバショフが、幼い頃の夢であった天文学を研究したいと語る場面には胸を打たれた。作中で語られる〈文法的虚構〉や〈大衆の相対的成熟の法則〉といった概念は政治的レトリックや革命理論の冷酷さを示し、読者に深い思索を促すだろう。ドラマチックな展開こそ乏しいものの、その静かな語り口の奥に全体主義の本質が静かに浮かび上がる点が印象的。思想的にも文学的にも極めて高い完成度を誇る作品ではあるが、元々ドイツ語で書かれたものをアマチュアの女学生が英語に訳したものが底本となっており、文章が少々ぎごちないのが難点か(とはいえ訳者のおかげでほとんど気にならないが。また成立年代や主題の関連から、どうしてもオーウェルとの比較になってしまうのが惜しい。わかりやすい起伏に富んだサスペンス……というわけにはいかないが、人間の尊厳について深く考えさせられる良作である。
Posted by ブクログ
スターリン体制時の時代を舞台として、幹部クラスのポジションにいた一人の党員が粛清されるまでを描いた作品。
当時の社会情勢を知らずとも、尋問のシーンの執拗さには真綿で首を絞められるような陰湿さを感じて楽しめる。
ジョージ・オーウェルの「1984年」の尋問シーンは本書から大きく影響を受けたらしいが、読んでいて納得した。
「党は個人の自由意思を否定したが、同時に自らの意思による自己犠牲を強要した。党は二者間の選択をする個人の能力を認めなかったが、絶えず正しい選択をすることを要求した。党は善と悪とを区別する個人の能力を認めなかったが、罪と裏切りについて躍起となって語った」
ヒトラーもまだ生きている1940年に、全体主義の本質と矛盾を指摘したこの作品は凄いと思う。
そして、作中に一切、主人公の祖国の名前が出てこないところも流石。