不覚にも、この本を読むまで「予測市場」という概念を知らずにいた。
企業が新規サービスや商品開発に取り組む場合、方向性や予算、プロジェクトチームの人選、マーケティング、収益など、様々な要素を考慮し、どれほどの黒字もしくは赤字になるかを予測し、実行か撤退かの意思決定を下さなければならない。そのために、
...続きを読む経営陣は会議を重ね、有識者や専門家の意見を聴き、市場調査をし、神に祈る。
だが、そのいずれより高い的中率を誇るのが予測市場という戦略だと本書は説く。
例えば、企業が新たにサービスや商品を企画したら、そのプロジェクトを金融商品化し、企業内に仮想市場を構築する。その上で、CEOから受付嬢までのすべての社員に一定の仮想通貨を与え、自由に投資させる。プロジェクトが成功すると判断すれば積極的に買いを入れ、失敗すると判断すれば空売りする。その結果、新規プロジェクトに与えられた仮想市場価格によって成否を予測、現実に実行するか撤退するかの判断に反映させる。それが市場予測だ。
ちなみにプロジェクトが実行され、満足に足りる利益が出た場合、プロジェクトを支持した社員(仮想市場で儲けた投資家)は、現金や現物でのボーナスが提供される
重要なのは、専門家から部外者まで様々な人材を投資に参加させること。
専門知識のある者は積極的に投資し、問題に疎い者は投資を控えることで予測の精度は増す。意思決定バイアスはプラスとマイナスで極限まで相殺される。一部の投資家が市場操作を試みても、多数派の純粋な投資家によって価格は正常化される。組織にとってネガティブな情報も反映される。
幅広い膨大な量の情報を吸い上げることができ、しかもそれらを分析する必要はない。市場の振る舞いが代わりやってくれるのだから。
この予測市場というシステムは、グーグル、マイクロソフト、GEなどの企業が意思決定プロセスに取り入れているという。また経営戦略だけではなく、選挙結果の予測、政策の是非、感染症の罹患シュミレーション、犯罪やテロの抑制など、幅広い応用が可能だとされる。
ある意味、予測市場は集合知の効率的運用にして究極の民主主義的意思決定と言える。集合知や民主主義を盲信するのは危険だが、興味深い試みであることは確かだ。日本では、アベノミクスとやらの頼りない柱の1本、ビッグデータ革命が予測市場に繋がる可能性を秘めている。その可能性を腐らせてほしくないものだ。