伊澤理江『黒い海 船は突然、深海へ消えた』講談社文庫。
デビュー作ながら、第45回講談社 本田靖春ノンフィクション賞、第54回大宅壮一ノンフィクション賞、第71回日本エッセイスト・クラブ賞、第11回日隅一雄・情報流通促進賞大賞を受賞した傑作ノンフィクション。
2008年に千葉県銚子市沖で碇泊中の第58寿和丸が20人の船員を乗せて僅か数分で転覆し、1時間余りで沈没した事故の謎に迫る内容なのだが、読み始めて直ぐに日航123便墜落事故と同じような匂いがした。
今の世は欺瞞に満ちている。簡単に全てを信じてはいけないということを自分は半世紀以上生きてきて、ようやく気付いた。特に企業や政治の世界で起きていることなどはまやかしに過ぎず、安直に信じて、深刻に受け取らないことが肝要だ。勿論、友人、知人、家族であろうと信じ過ぎることは愚かである。というような、まさに不信感を抱かせる国の運輸安全委員会の対応。
風速10メートル、波高2メートルという大したことのない状況下でパラシュート・アンカーで碇泊中の船が沈没する前に聞こえた2度の衝撃音、衝撃音から転覆、沈没までの時間、沈没後に海上に漂った大量の油。全てが船底に何かが激突したことが沈没の原因であることを示しているのに運輸安全委員会は大波が原因と断言する。
さらに運輸安全委員会の調査官は、事故の優先順位は1番目は旅客事故、2番は商船、3番目に漁船の事故と信じられない言葉を放つ。
運輸安全委員会による波による転覆という結果ありきのお座なり調査。沈没した船を引き揚げることも、深海での船の調査を行うこともなく、3年という無駄な時間を費やした調査結果。
2008年、千葉県銚子市沖でカツオ漁に出ていた20人の船員を乗せた第58寿和丸が、パラシュート・アンカーを使って碇泊中に2度の衝撃を受けた1、2分後に転覆し、水深5,800メートルの海底に沈む。助かったのは僅か3人、遺体となって収容されたのは4人、13人の船員が船と共に海底に沈んだ。
11年後、著者はこの船の沈没について取材を開始する。著者が生還者や専門家、国の事故調査に関わった者たちを取材するうちに、少しずつ事件の全貌が現れ始める。
潜水艦による衝突が船の転覆、沈没をもたらしたという極めて濃い疑念。1970年以降で潜水艦と船舶の接触、衝突事故は30件もあるという驚愕の事実。
しかし、まるで日航123便墜落事故と同じような疑いだけで、結論を出せないもどかしさ。
国による不都合な真相の隠蔽疑いは航空機事故、船舶事故の他にも原発事故、新型コロナウイルスのワクチンによる副反応や後遺症と多数あることを心に刻んでおいた方が良いだろう。
本体価格790円
★★★★★