元静岡新聞記者で静岡県庁で取材をしてきた著者による、川勝静岡県知事を批判する本。リニアの工事を認めない様々な静岡県の対応には問題があるものの、複雑な水利権の問題があることも事実で、それぞれの論点が理解できた。静岡県の思惑は、静岡県内にリニア新駅を作ることであるが、これは到底受け入れられないであろう。
...続きを読むそれよりは、リニア工事をテコに、中流域の水不足の解消を目指すべきであるが、これにも賛同しない川勝知事の考え方は推測しかねる。
著者の論調には感情的な面があり、根拠の明示が不十分で学術的でもないが、よく取材されており勉強になる内容であった。批判を承知の上で出版した著者の勇気は素晴らしい。
「(人口の多い下流域には水不足はない)下流域のさまざまな利水に使われる水は、電力発電用のダムの導水管で結ばれ、川口発電所の取水口から下流域の自治体に安定的に役立つ水を供給する。それに対して、中流域は、ダムによって干上がってしまった大井川の「水枯れ」の象徴となった。(リニアの水は下流域に関連)」p56
「大井川中流域は数多くのダムで「河原砂漠」となってしまった」p61
「2022年4月26日の県地質構造・水資源専門部会で、JR東海は、工事によって山梨県へ流出する期間中、湧水を取り戻す方策として、県外流出と同じ量の東京電力による田代ダム取水抑制案を提案した。東京電力の内諾を得た上で、水利権の許可権限を有する国交省中部地方整備局と調整を始めていることを、JR東海は明らかにした(川勝知事は、リニアとは関係ない水利権と絡めることに反対)」p65
「(国交省有識者会議)「静岡県外流出量の最大500万m3は非常に微々たる値であり、中下流域の水環境への影響はほぼない」と、「工事中の湧水流出」は全く取るに足らない問題だと一蹴していた(川勝知事は、一滴足りとも許可しない姿勢)」p156
「国交省鉄道局“敗北”の最大の原因は、大井川、長島ダムを管理、発電を含めた利水者の水利権の許可権限を有する、同じ国交省水管理・国土保全局の地方組織・中部地方整備局と連携していなかったことである」p172
「(川勝知事)リニア問題とは違い、電力ダムからの「水返せ」には知らんぷりを決め込んでいる」p177
「鉄道局は、川勝知事が「水返せ」に知らんふりを決め込んでいることさえ承知していない。中流域、下流域の水問題を全く同じだと考えているようでは、大井川の実情はいつまでたってもわからないだろう」p177