我が家の映画鑑賞嗜好とひじょうに合致した本で、嬉しくなる。
本書も、冒頭
「2015年から2021年の7年間に日本で劇場公開された外国映画のうち、ヒトラー、ナチスを直接的テーマとするものや、第二次世界大戦欧州戦線、戦後東西ドイツ等を題材にした作品は筆者がざっと数えただけで70本ほどある。」
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とはじまる。我が家も先の海外赴任明けの2015年から改めて劇場での積極鑑賞を行って来た。しかも、「ナチスもの、第二次世界大戦関係もの、多いなあ」と思っていたし、興味ももって選んで観てきたこともあり、本書で取り上げる近年の作品は多く目にしているので、本書の内容も非常に読みやすかった。
上記、7年で70本、“つまり年間10本、ほぼ月1本”と封切ペースを分析しているが、近年の日本での年間外国映画劇場公開数550~600本からすると2%未満。大した数字ではないが、70年以上前の素材が未だに・・・という意味でも近年、目立つという指摘に異論はない。
本書の分析も、①2015年が第二次大戦の終結から70年の節目の年に当たったこと、そのため記念制作された作品が多いこと、②史実と何等か関係した人物が亡くなり敬遠されがちだったテーマを描くことが可能になったことを挙げていて、そこも御意。
②については、関係者が亡くなっていくので「現代」の物語として描くにはギリギリのタイミングとして、駆け込みで制作してるのではなかろうか?というのも我が家の分析だ。
本書でも取り上げられている『手紙は覚えている』などは、認知症の老人がホロコーストの復讐を果たす物語で、当時の関係者が90代に入ってこそ描ける内容で、10年前では描けないし、10年後ではありえない(100歳では身動きでない)話だろう。『手紙~』以外にも、『家に帰ろう』(2017 スペイン/アルゼンチン制作)などもその系譜か(本書では取り上げられてなかったけど)。
また、理由のその③として
「近年の欧米をはじめ世界各国、日本における保守、右翼、排外主義の勢力の伸長と、これらに対するリベラルな思想を持つ人々の危惧、反発といった一面もあると思う。」
というのも、極めて賛同。その危惧が現実化してきたかのように、今年(2022年)、ロシアによるウクライナ侵攻が起こり、その傾向が一層加速してきている。
映画人が作品に内包させてきた懸念や警鐘が現実となる様を目の当たりにして、時代の中で映画鑑賞を行う意義を改めて感じたりもする。
ロシアといえば、本書で『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』もナチス映画として取り上げている。あの戯画化された作品も取り上げるなら、『セイビング・レニングラード』(2019露)も入れて欲しかったかな(せめて巻末のリストにでも)。
抜けているといえば、『黄金のアデーレ 名画の帰還』(2015米英)も入れておいても良いと思うのだがどうなんだろう。
いずれにせよ、ナチスもの、第二次世界大戦ものを興味深く鑑賞するための格好のガイドブックになっていてオススメです。
また奇しくも上梓がこの時期(2022年6月)となったことも、平和を希求する意義も増して本書の価値を高めていると思う。それは、ある意味、残念なことなんだけども。