ー 係争の対象となった国境は、不安と痛みに満ちている。国境は、「属する者」と「属さない者」を分けようとする民族主義者のイデオロギーや思想に、基盤と力を与える。 ラジオ放送や新聞のコラム、架空のドラマ、SNSの投稿動画などが、毎日のように、国境の必要性や英知に関する情報と意見を私たちにぶつけてくる。こ
...続きを読むれは大衆的な地政学、あるいはポピュリスト的な地政学とさえ言えるだろう。なぜなら公教育や市民教育の枠外で行われているからだ。 国境の物語やテレビ放送はどの民族にも共通のものなので、世界中の視聴者が、たとえばウクライナ人不法移民の越境を阻もうとするポーランドの国境警備隊の苦闘のドラマを見ることができる(2014年製作の『ザ・ボーダー』)。こうした日々の実体験や架空のドラマから見てとれるのは、国境が、ある者に対しては機会を生み出し、別のある者に対しては生死に関わる危険をもたらすという単純な現実である。
けだし、国境紛争の政治的な意味合いは多岐にわたるが、私たちはそれが人間に及ぼす帰結のことを忘れてはなるまい。世界のどこかで国境線が引かれたり、引き直されたりすれば、必ずそれに巻き込まれる人々が出るのだ。 英領インドの分割やパレスチナの例で見てきたように、国境紛争がうち続く中では、人の暮らしが激変し、命が失われることさえある。一方、それらとは別の形で人々が国境管理の強化に巻き込まれ、国境地帯の鮮烈な暮らしが良くも悪くも浮き彫りになるケースもある。 ー
動く国境、水の国境、消える国境、ノーマンズランド、承認されざる国境、宇宙、、、と国境についてさまざまな角度で考察した作品。
2021年に出版されるなんて、何というタイムリーなタイミングだろう。とは言え、国境問題は常に世界中で起きているので、いつでもタイムリーなのかもしれないが…。特にイスラエルの…。
まさにウクライナの4州が論点になっている今だからこそ、読む価値があると思う。
国境が無ければいい、というお花畑な話ではなく、国境の合意形成が如何になされるべきか、という話。そこに議論は踏み込んでいないけれど、それを考えるための作品。