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沢信行
長野県生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業。長野県の中学、高校にて物理を中心に理科教育を行っている
力学で学ぶことの大半は、17世紀に活躍したイギリスのニュートンによって構築された学問です。 ニュートンは、18歳でケンブリッジ大学へ入学しました。そこで多くのことを学び、飛び抜けた才能を発揮しました。しかし、ちょうどその頃にロンドンからケンブリッジにかけてペストが大流行しました。ペストは非常に致死率の高い伝染病で、ケンブリッジ大学も2年間閉鎖されたそうです。
その期間、ニュートンは故郷へ帰りました。そして、一人で物理学や数学の研究を続けたのです。実は、物理学や数学に関する数々の発見は、この時期になされたといわれています。大学で研究していたときではなく、一人でいたときだったのです。孤独な中でも深い思索を続ける忍耐強さを持っていたからこその成果だったことがわかります。
物理のベースは力学です。入試においても高配点です。また、力学が理解できないと以降の分野の理解も難しくなってしまいます。 そのような意味で受験生の皆さんが優先して学習すべきなのは力学分野でしょう。何よりも基本が大切となる分野なので、1つずつ丁寧に学んでいくとよいと思います。必ずマスターしましょう。
自然エネルギーの活用を普及させることは、世界的な課題です。そのひとつが、風力発電です。巨大風車を設置できる場所が限られている日本にとって、洋上風力発電は大きな可能性を秘めていると考えられています。海洋上であれば、騒音や景観破壊が問題にならないだけでなく、風力が安定するメリットもあります。 ただ、日本の近海は深いところがほとんどで、海底に固定して設置するとコストが高くなってしまいます。そこで、海に浮かべる風車が研究されています。 そのときの課題が、 いかに風車を倒れないように設計するか です。浮体式の風力発電機では、塔の上部を中空の薄い鉄に、下部を中空のコンクリートにします。そして、下部には海水を入れられるようにします。そのようにすることで、発電機全体の重心を低くできます。
水力発電では、ダムに貯められた水の「重力による位置エネルギー」を「運動エネルギー」に変換 します。位置エネルギーを解放することで、水が激しく動くようになるのです。そして、激しく流れる水は発電機を回転させます。これが、水力発電の仕組みです。
日本における水力発電への依存度は、1割ほどです。概算ですが、日本の電力会社の発電能力は最大2億kWほどです。これは、1秒間に2,000億ジュール(J)のエネルギーを生み出せる能力になります。 この1割(200億J)の電気エネルギーを生み出すのが、ダムに貯められた水の位置エネルギーというわけです。それは、どのくらいの量の水なのでしょうか。
等速円運動する物体と一緒に円運動する視点には、 遠心力 が働いて見える。 この視点からは、(円運動する)物体は静止して見える。それは、向心力と遠心力がつりあっているからである。 ここで、遠心力は一緒に円運動する視点にしか見えない(傍から眺めている人には見えない)ことに注意が必要である。 遠心力は、慣性力といわれる力の一種である。「加速度運動するものに乗った視点にだけ見える(感じられる)力」が慣性力であり、向きと大きさは次のようになる。
子どもの遊具であるブランコは、どこでも同じくらいの長さに設計されています。長ささえ決めれば、ちょうど心地よい周期で遊べるからです。逆にいえば、どんなに頑張ってブランコをこいでも周期を変えることはできません。唯一、周期を短くできる方法は立ちこぎです。立つことで重心が振り子の支点に近くなるからです。これは、振り子の長さが短くなることに相当します。
ケプラーは、惑星が次の3法則を満たしながら運動していることを発見した。 ● 第1法則:惑星は、太陽を1つの焦点とする楕円軌道を描いている 太陽系の惑星は、完全な円軌道を描いて運動するわけではない。少し歪んだ楕円軌道を運動している。地球の場合、太陽に最も近いときと遠いときで、太陽からの距離は500万kmほど変わる。
● 第2法則:惑星の面積速度は一定に保たれる 下図のように、太陽と惑星を結ぶ線分が単位時間に描く面積を 面積速度 という。これが一定なことは、惑星が太陽から離れたときほどゆっくり動くようになることを示している。
● 第3法則:惑星の公転周期 T の2乗と楕円軌道の半長軸 a(長軸の長さの半分)の3乗との比は、すべての惑星について等しい これを式で表すと「」となり、周期の単位を「年」、半長軸の単位を「天文単位」(地球の半長軸が1天文単位)とすると、地球の場合に「」となることから、一定の値は1であることがわかる。
飛行機に乗ると耳が痛くなる理由 このことは、特に気圧変化が激しく起こるものの設計に必要となります。たとえば、飛行機に乗ると耳が痛くなることがあります。これは、特に離陸時に上昇していくときに起こりやすくなります。
その理由は、飛行機が上昇するにつれて 周囲の気圧が低くなること にあります。気体の圧力が下がり、それに反比例して体積が増加するのです。耳の中にも空気が入っていますから、それが膨張して耳の痛みの原因となってしまうのです。 飛行機が飛ぶ上空10kmの辺りは、気圧が地上の4分の1程度と大変低くなっています。そのままの気圧では人は耐えられませんから、加圧して調整しています。それでも、機内の圧力は地上のおよそ0.8倍に下がってしまいます。圧力が低下するため空気の膨張は避けられないのです。
空気が冷たくなると、やがて水滴が出現します。これはもともと空気中に含まれていた水蒸気が液体に変わったものです。気温が下がると空気中に含むことができる水蒸気の量(飽和水蒸気量)が減るため、水滴になるのです。これが、雲の誕生です。雲は、空気の断熱膨張によって作られるのです。
一般的に、身体の大きい男性は声が低いことが多いです。これも、 気柱の共鳴 によって理解できます。 人が声を出す仕組みは、次の通りです。 声道は、一般的には男性のほうが長くなっています。また、身体が大きいほどそれに合わせて声道が長くなる場合がほとんどです。 つまり、身体の大きい男性は声帯で発した音を共鳴させる気柱が長くなるため、その音は振動数が小さい(低い)音となるのです。これが、一般的に身体の大きい男性の声が低くなる理由です。 ちなみに、男子が大人の身体へと変わっていくとき、喉仏が前へ突き出ます。このとき、喉仏に引っ張られて声道が長く伸びるため、声変わりする(声が低くなる)のです。
数学を学んでいなかったファラデー 電磁気学は、19世紀に発展した学問です。特に、ファラデーによる 電磁誘導の発見 と、マクスウェルによる 電磁気学の数式による整理(マクスウェル方程式) が重要です。マクスウェル方程式については高校物理では登場しませんが、その内容に相当することは学びます。 さて、電磁誘導は太陽光発電以外の発電の原理となっている重要な現象です。1831年のファラデーによる発見がなければ、今日の電気に不自由しない生活もなかったかもしれません。
ファラデーはイギリスの貧しい家に生まれ、幼い頃には製本所に住み込みで働いていました。そんな境遇にもかかわらず、科学への好奇心を持っていたそうです。ある日、ファラデーはデービーという高名な科学者の講演を聴く機会を得ます。講演を聴いて深い感銘を受けたファラデーは、手紙を書いて懇願し、デービーの助手にしてもらいます。 こうしてデービーの助手となったファラデーですが、生まれが貧しかったため数学を学んでいませんでした。これは、科学を研究する上で致命的ともいえることです。しかし、彼はひたすら“実験”を通しての探究に取り組みました。そして、その成果として「電磁誘導」という現象を発見したのです。
多くの発明をしたデービーが、のちに「私の最大の発見はファラデーに出会ったことだ」と語るほど、ファラデーの活躍はめざましいものでした。 自然科学を探究する上で、地道に“実験”することがいかに大切かがわかる話です。マクスウェルは、「ファラデーが数学者でなかったことは、おそらく科学にとって幸運なことであった」と述べているほどなのです。 本章では、過去の偉人による電磁気学について、…
古くからあるものとしては、コピー機があります。1445年頃、ドイツのグーテンベルクによって活版印刷術が発明されました。文字を金属や木の小さな棒の先に彫り込んだ版へ、紙を押し当てて印刷する技術です。これによって同一の文書が大量に出回るようになり、知識の拡大が容易になりました。1つの発見が印刷物を通して多くの人に広がり、知識が共有され、科学の進歩はスピードアップしていったのです。
ところで、電磁誘導を発見したのはイギリスのファラデーという人です。1831年のことです。そのような人だから、さぞかし優秀な科学者だったと思われるでしょう。もちろん、ファラデーは偉大な科学者です。ただし、生まれは貧しく、決して恵まれた環境で学問に打ち込めたわけではなかったそうです。 Introductionでも紹介したように、ファラデーは、数学を十分に学んだわけではありません。それまで数学を十分に学べていなかったことは、科学者として致命的ともいえることでした。それでも、ファラデーはひたすら“実験”に取り組んだのです。そして、失敗を繰り返しながらもチャレンジを続ける中で、電磁誘導をはじめとして多くの発見をしたのです。
しかし、20世紀に入るとそうではないことに人類は気づきました。19世紀までの物理学では説明できない現象が見つかったからです。それは、人間の眼では見ることのできない ミクロな世界における現象 です。 具体的な内容は本章で紹介しますが、力学から電磁気学までで説明できるのは、マクロな世界の現象なのです。私たちが日常的に扱うのは、マクロな世界です。そういう意味では、電磁気学までの物理学があれば、日常生活を送る上で不自由はありません。 ミクロな世界を探求するために20世紀になってから登場したのが、 量子力学 です。量子力学は、私たちの常識的な感覚をもってすると理解しがたく感じます。高校物理の最後に量子力学を学び、何だかよくわからないまま終わってしまった記憶のある方も多いと思います。そこには、このような原因があるのです。
量子力学を理解するには、量子力学の特徴をざっくり捉えておくことが有効です。量子力学では、 ● エネルギーはとびとびの値しか取ることができない ● 光は波動であるが、粒子としても振る舞う ● 物質は粒子であるが、波動としても振る舞う という3つのことがポイントとなります。ただし、どれも感覚的には受け入れがたいでしょう。そういった量子力学が確立された背景には、数々の実験があるのです。いずれも、実験に裏付けられた真理です。不思議な世界を旅する気分で、量子力学を味わってもらえればと思います。
量子力学で明らかになる事柄は、私たちからは「不思議」としか感じられないことばかりです。だからこそ難しく感じて苦手にしてしまう人が多い分野であるのも事実です。 ただ、逆にいえば「不思議」を感じ続けながら学ぶことができるのが、量子力学という学問です。日常とはかけ離…
夜空を見上げると、明るい星であろうが暗い星であろうが、すぐに見ることができます。暗い星は見つけるのが大変ということはほとんどありません。どうしてでしょうか。 実は、この現象も 光が粒子性を持つ と考えると納得できます。網膜の視細胞は、光を受け取ると脳へ信号を送ります。ただし、信号を発信するには1 eV程度のエネルギーを受け取って活性化される必要があります。
地球にウラン資源は豊富にあります。そして、核分裂を起こしても二酸化炭素を排出するわけではありません。そのため、大きな期待を集め実用化されてきました。今後も研究が続くとは思いますが、安全性や放射性廃棄物など問題点が山積みなことは否めません。 核融合は、核分裂と同じく大きなエネルギーを放出します。そのエネルギーを利用すれば、やはり発電ができるはずです。これは 核融合発電 と呼ばれ、実用化はされていませんが日本や世界で研究が続けられています。
本章では、まずはその理論を学びます。どんな化学反応にも、「どうしてそのような変化が起こるのか」という原因 があります。これを理解することが、化学を理解するための近道です。だからこそ、化学の学習のスタートは 理論化学 なのです。
理論化学を学ぶ上で大事になるのは「 ミクロな眼」です。化学を学ぶとき、日常とはちょっと違った視点を持つと理解しやすくなります。それが「ミクロな眼」なのです。 ここで、私たちの目に見えないような小さな世界のことを「ミクロ」と表現しています。それは、具体的には物質を構成する原子や分子などの小さな粒子のことです。こういったものが集まって世の中のすべての物質が出来上がっているのです。
化学を深く理解するためには計算が欠かせません。化学計算を行う上で、ベースとなるのは「 物質量(モル)」という考え方です。これは高校化学を学ぶ上で最初のハードルでもあり、これを理解するのに苦労した人もいるかと思います。
まずは化学の理論を身につけないと、化学はただの暗記科目になってしまいます。無味乾燥な学習とならないためにも、理屈を理解することが肝心です。理論化学を深く理解することで、多様な物質間のつながりが見えてきます。
2019年のノーベル化学賞は、リチウムイオン電池の開発に貢献した日本の吉野彰さんらに贈られました。リチウムイオン電池の中では、アルカリ金属のひとつである リチウム(Li) が活躍しています。
分子を構成する各原子には、電子を引き寄せようとする力がある。これを 電気陰性度 といい、原子の種類によって大きさに差がある。