フッサールの知覚論にかんする研究書です。
主に『論理学研究』から『イデーンI』を経て、『受動的綜合の分析』や工期の発生的現象学にいたるまでのフッサールの思索の変遷をたどり、彼の知覚にかんする考えと志向性という概念が、どのように深められていったのかということを解明しています。
著者はまず、『論理学
...続きを読む研究』におけるフッサールの知覚理論が、「代表象理論」と呼ぶことのできるものであることをたしかめます。それは、言語の意味を統握するというモデルにもとづいて構築された理論であり、知覚的経験がその対象を呈示的に指示すると考えられていました。著者は、こうしたフッサールの考えに対する批判的な検討をおこない、実的な作用と志向的な対象の結びつきを、どのようなものとして理解するべきなのかという認識論的な問題が存在していることを指摘します。
つづいて著者は、「論理学と認識論入門」「物と空間」などの講義を検討し、フッサールの思想がどのように変化していったのかということを明らかにしています。そして『イデーンI』において、ノエシスとノエマの双方における調和的な関係が「同一化総合」を可能にしているという発想にたどり着いたことが明らかにされ、このような関係論的な発想が『受動的綜合の分析』以降の後期の思想的展開へとつながっていくことが論じられています。
フッサールの思想に対して内在的な観点からの批判的検討をおこない、そこで洗い出された問題が、その後のフッサール自身の思索の展開のなかで解決されていったことが示されるというしかたで議論が進められており、専門的な研究書ではあるものの、比較的読みやすい内容になっているように感じました。