竹内まりあの「プラスチックラブ」や松原みきの「真夜中のドア」などの日本のシティポップスが海外に見つけられた、という話題に触れると、なんだかうれしいような気がします。YouTubeでいろんな国の人がとても上手な日本語で「♪私のことを本気で愛さないで♪」なんて歌っているのを見ると、こっちだって単なるリス
...続きを読むナーだったのに変にプライドが満たされるような気持ちになってしまいます。この本を読んでもそんな気分になります。ハイスクールの日本語のクラスで手塚治虫にハマったことで日本のポップカルチャーの研究家になった著者が、世界の人々の生活を変えた日本発サブカルチャーの歴史をぐいぐい紐解いていく本です。玩具、アニメ、カラオケ、ハローキティ、ウォークマン、女子高生、オタク、ファミコン&ゲームボーイ、2ちゃんんる…本書はグローバルの読者に向かれて書かれたものなので日本人の自意識を離れた外からの視点に立っていて、しかし日本生まれのコンテンツ愛にまみれて書かれたものなのでかなり新鮮な論考でした。キーマンへのインタビューも丁寧にしているし。インタビューされる側も外人顔の人にマニアックな質問されるとうれしかったのではないか、とかも考えました。それを世界の流れの座標軸に置く、という作業なので辛辣な部分も出てきます。例えば「鉄腕アトム」の「アストロボーイ」としてのアメリカ上陸は決してコンテンツとして評価された訳じゃなくローカル局にとっての激安アニメとして実現したとか。この本の原題は「PURE INVENTION How Japan Made the Modern World」というように、邦題の「新ジャポニズム産業史1945-2020」という大きな物語ではなくて、ひとりひとりのクリエイターのファニーで熱い熱情のお話です。どれもが、まるでイグノーベル賞のような隅っこの物語。しかし、産業史というより社会史として大きく世界を変えてきたことがわかります。いや、成熟した資本主義の中での生活の変化史かも。「実際には、日本というもの自体が純然たる創作(pure invention)なのだ。そんな国は存在しない、そんな人々はいない…日本人というものは…単に一つの表現様式であり、芸術の精巧な空想の産物にほかならない。ーオスカー・ワイルド『虚言の衰退』1889年」ワイルドの時代、つまり日本は開国した時代から、世界にファンタジーとして発見されるそんな存在でありました。クールジャパンって今どうなっているのか知りませんが、国の政策というより一人ひとりのファンタジーの蓄積が気になります。