岩手の貧農に生まれフィリピンで亡くなった一人の新聞記者。その後裔の記者が75年を経て生涯を追う。
毎日新聞の連載記事。貧しい農家に生まれ苦学しながら農学校を出た伊藤清六は毎日新聞で農政記者となる。やがて戦争に巻き込まれ、中国特派員として従軍。上海、南京などの戦線で戦意高揚の記事をかく。帰国後、国内
...続きを読むで言論統制に直面し、最期はフィリピンのマニラで。マニラを撤退したジャングルでガリ版の記事を作り続けたという。
本書の筆者は遠い親戚。清六の姉が筆者の曾祖母。偶然に同じ毎日新聞の記者。取材を重ねるうちにどうしても戦争と報道のつながりに直面せざるを得ない。筆者の葛藤がストレートに描かれているところがよい。南京事件にも立ち会っていると思われる。
戦後75年が過ぎ、キーパーソンがすでに亡くなっている例が多い。それでも関係者の多くが新聞人だけあって記事、手紙、書籍等の素材があり、筆者は執念の取材で、清六の生涯を復元していく。
勧善懲悪でなく、純粋に歴史を追い求めた点を高く評価したい。