主題はジェンダー論だと思うけど、それよりもリアルな青春小説として楽しめた。
特に幼児期の視点(世間の常識というトリックにはじめて触れる時)、ティーンの視点(世間の常識をはやく取り入れたいともがく時)をこれほどリアルに描いた作品はないと思う。
ただ、そのみずみずしい筆致は大学を卒業すると同時に色褪
...続きを読むせていく。
これは「現実に適合していく」事へのアイロニーなのか?赤裸々に描かれた青年期と違って、仄めかすだけで伏せられている内容が多かった。
なので最終章で唐突にジェンダー論?として総括してしまったのは残念だった。
たしかに誰もが昔の事は語ることができても近しい事には口が重くなってしまう。
その繊細な文体に魅了されただけに最後は残念、というか肩透かし感が強い。
人類は染色体の差異を長年積み上げた物語によって「決定運命論」として神格化しシステム化してきた。
本文で語られているように、客観視すると愚かしい仕組みであるが、システムに沿っていると表面的には安楽ではある(これゆえのシステムなのだが)
これは進歩的なアクティビストであっても完全に脱却するのが難しい。幾何学と違って証明不可能な「ものがたり」なのだ。
文明と共に積み上げられた「ものがたり」から自由になるには自分達で新たな「ものがたり」を紡ぐしかない。
その物語はディズニーやハリウッドには作り出せないだろう。彼らは実態としては古いものがたりこそが利益の源泉なのだから。
ただ、少しづつ、ほんの少しづつではあるが、ノイズとしてのあたらしいものがたりの息吹を感じる。
そしてあたらしいものがたりは、決してエスタブリッシュメントからは生まれないのだ。