著者の経験について、このように書かれていた
「まず、中高生の時に流行っていた音楽を通して、ありのままの自分、自分らしく、自分を信じてという歌詞に慣れ親しんできました。また、就職活動の時に、自己分析やそれにもとづいた自己PRというものに、取り組まねばならない状況に直面した最初の方の世代でした。そして、本や雑誌、広告などを通じて、○○力を高めようといった自己啓発的な物言いを年々目にするようになり、書店では自己啓発書が占める面積が増えていることを感じていた。」
そこで著者は「この状況はどのようにして表れて、私たちはどのような「自己」であることを求められているのか、研究に進んだという。
まさに自分と同じ経験で、同世代の人だったことに驚き。自分はそんな状況に疑問すら抱かなかったなぁと思ったり。
面白かったのが、著者は自己啓発書の研究に進み、1,000冊以上読んだ結果、「もうこの手の本は読みたくない!」となったそう。
それにしても、1,000冊まで読んだところがすでにすごいと思う。
概略
私は私が思うように生きているんだ、時代や自己意識など、別の視点から見直していく。
「私」のあり方が様々な歴史・社会的条件ないし言説的条件のもとに成り立っているという観点を持つ。
前半は、「私」についてのこれまでの研究者の視点紹介、後半は著者の研究についてまとめられていた。後半の方が面白かったし読みやすかった。
以下メモ
・自己肯定感
それがポジティブな効果を様々にもたらすという通念とは異なり、多くのことがらとは無相関で、うぬぼれや自己愛がそこに混じってくると、他人への攻撃性や偏見を強める場合もある。自己肯定感を高めることは万能の効果を持つわけではなく、その効果の意味はケースバイケースで1つ1つ解釈していく必要がある(ロイ・バウマイスターの実験)
・ポップ心理学
いわゆる「心の専門家」による一般向けの「心」をめぐる知識・技法の提供
例えば、自己啓発書の隆盛、就職活動における自己分析、企業経営における心理学的知識の導入、学校教育における心の教育など、望ましい心のあり方が提示される。
結果、問題のある人とみなされないように、人々はより高度な自己コントロールへと焚きつけられる。
・自己の多元化(浅野智彦)
エリクソンの考え、自己というものを一元的、統合的にみなし、そうでない点状態をアイデンティティ拡散として否定的に評価する点について、問題意識をもつ。
現代日本の社会的変容の中で、こうした統合は困難。場面や状況によって、出てくる自分は違うけれど、自分には自分らしさがあると考える。「唯一の本当の自分」があるという考え方は溶け去る。
・自己のあり方の変容
かつては、個人の考えがどうこうというよりは、伝統的共同体の安定した慣習や秩序に埋め込まれていた。
近代化の中で、そういった慣習や秩序がゆらぎ、人々はこれまでの経験や各種の情報を自ら解釈、組織して、自己を「物語」のように編成することで、安定した自己理解を自ら作り上げなければならない(アンソニー・ギデンズ)
・個人化と制度化
人々の人生におこることは、すべからく自己責任の問題とされるようになってくる。
だからこそ、人々は自分自身やその「心」に関心を向け、自己実現やアイデンティティを追い求め、仕事上のスキルや人生における意思決定能力の向上などにいそしむようになる。(ウルリッヒ・ベック)
・今日において手っ取り早く「私が今のような私であること」を充足させてくれるのは、多種多様な形で自己を飾り立て、変身させてくれる「消費」というふるまいだが、それもまたグローバルな競争のもとで次々と新たな消費の選択肢が提供され、流行に乗り遅れたり選択に失敗すれば、マイナスの自己イメージを刻印されかねない。
なので、人々は一つのところに留まってくつろいだ感覚を得るのではなく、自らが置かれている状況の観察を絶えず行いながら、自分の新しいあり方を探し続ける。
唯一ゆるぎないアイデンティティの核があるとすればそれは「選んでいること」(ジグムント・バウマン)