この本のタイトルを見たときに、そもそもヘレンケラーについて自分が知っていることは何か。
そして、優しいタッチで描かれたイラストなのにも関わらず、なぜ「怒りと愛を込めた手紙」というタイトルなのだろうという疑問が浮かんだ。
幼少期からほとんど目が見えない障害を抱えた著者は、「どうしてヘレンケラーのよ
...続きを読むうになれないの」という言葉に悩まされ続けた。
まるで神話のように語り継がれる、ヘレンケラーのエピソードを、多くの文献と想像力で、生き生きとした、1人の人間としてのヘレンケラーへと変えようとする試みは、こうしたことがきっかけに生まれたそう。
全ての物語がそうである、とは言いきれないが、物語としての重要な要素である、「わかりやすさ」が、かえって人間性を失わせることにつながっているのかもしれない。
そうした意味では、文献を参考にし、ときには想像力で補い、エピソードを広げようとする著者の試みは、物語にする流れの真逆を行くもののように思えた(現に、性に関することにもあえて触れていた)。
生き生きとした文章で、まるで自分がその場にいるような気にさせられた。
食べ物の匂いや、肌の質感、喧騒まで、本の中にでてくる多彩な表現を前にして、五感を研ぎ澄ませながら、読むことをお勧めします。