宇宙について、実はあまり関心がない。
ニュースでかぐやとか、嫦娥とか聞くことはあるけれど。
米中をはじめ、宇宙開発が進んでいるとは聞いている。
今世紀の戦争は、宇宙空間とサイバースペースでの戦いになるだろう、という話も聞いたことがある。
それでも、自分にとって、遠い世界のお話。
だから、本書を手に取
...続きを読むったのは、ほぼ偶然といってよい。
もちろん、知らない話のオンパレードだった。
この本では、20世紀中ごろ、冷戦を背景に高まった月探査競争のことから語り起される。
ソ連が先行していた宇宙有人飛行を追い越そうとアメリカが有人月着陸を成功させる。
アポロ計画で持ち帰った月の試料や、人工衛星からとらえた月の画像から、20世紀後半には次々と月についての知見が重ねられていった、とのことだった。
その一つが、「クレーター年代学」なる分野。
岩石に含まれる元素の同位体の比で、マグマ状だったものが固まった年代が推定できる。(絶対年代の推定)
さらに、月面にできたクレーターの多さで、その地面がいつ形成されたか、他の場所と比較することで推定できるのだそうだ。(相対年代の推定)
この話を聞いても、ピンとこないのだが、天体の進化を時間的にはかるものさしとなり、学問的には重要であるらしい。
だが、学問的動機だけではどうにもならない領域らしい。
たしかに人類が初めて月に行った、ということは、私たち一般にも広く知られるイベントだった。
でも、その後のことはあまり知らない。
そのあたりを本書によって知ることができた。
それは、簡単に言えば、多分に政治的状況、経済的状況に影響を受けてきたということらしい。
70年代以降は、アメリカの財政難で宇宙開発のペースが落ちていく。
アポロ計画が終了し、月探査の時代が終わる。
80年代は、スペースシャトルの時代。
有人宇宙船スペースシャトルの開発により、宇宙輸送技術の開発へシフトするが、チャレンジャー号の墜落により、社会の批判が高まっていく。
その後、アメリカは宇宙ステーション建設に再シフト。
冷戦終了は宇宙開発にも影響があったという。
軍事目的で宇宙開発をするという論理は通用しなくなり、「アメリカの」宇宙ステーションから、「国際」宇宙ステーションとし、各国から資金を集めるモデルに改め、プロジェクトが進むことになった。
ああ、よかった―と思うところだが、月の研究者に言わせると、ますます月研究から遠ざかって行ってしまうことになったというのは皮肉だ。
それでも、90年代以降は画像技術が進み、探査機が月全体を撮影したデータが得られるようになったそうだ。
これが、月の自転軸の極域の永久影に水があるのではないかという報告につながり、再び月に注目が集まることになる。
アメリカが月探査に消極的になる一方で、ヨーロッパ、日本、中国、インドが乗り出してくる。
(ここからが、筆者の領域になってくる。)
水の有無についての議論は、あまりない、という結果になりそうだったが、決着はまだついていないらしい。
ついでながら、宇宙空間で水は割と生成されるという話は、本書で初めて知った。
生成はされるが、水分子が水素イオンと酸素イオンに乖離してしまうらしい。
水は月の表面にはないが、岩石の中になら可能性はあるのかもしれないという。
そこで、紫外線や隕石の影響を受けにくい「溶岩チューブ」内にある岩石に注目がいく…ようだが。
溶岩チューブについて話が移っていくのだが、月移住空間としての可能性についての方がメインだった。
宇宙に行くことなくそれを観測するにはどうするかという話も興味深い。
丈夫で、宇宙線も遮られ、気温の変化も穏やかな溶岩チューブに住むとしたら?
それはそれで、SF的な想像をそそられる話ではある。
筆者自身の研究に関わる記述は、世界の研究者の中でいかに最初の成果とするかといった手に汗を握るような駆け引きも書かれ、それはそれで面白い。
なんとなくiPS細胞の研究成果を発表する山中博士の話を思い出した。