椿ゆずの作品一覧
「椿ゆず」の「アルファ嫌いのオメガ令息が寡黙な騎士に溺愛されるまで」「みなと商事コインランドリー」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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Posted by ブクログ
【・・・・・俺ってマジで、本命童貞じゃん(昴)】
Eros度★
おやおや。誰にでも感じよく振る舞える人気者が、たった一人の先輩にだけ不機嫌になる。この扱いづらい特別感に、最初から頬が緩みました。男子寮で同室になった、バスケ部の後輩・昴と、お人好しの先輩・詠太。冷たい態度に困惑する先輩と、その先輩が気になって仕方ない後輩の、気持ちと態度の食い違いがたまりません。
昴の魅力は、外では通用する余裕が詠太の前で崩れるところです。自分は以前から覚えていたのに、相手から声をかけてもらえなかった。その不満に触れると、拒絶の言葉にさえ、気づいてほしかった寂しさが透けて見えます。自分から歩み寄るのは悔しい。でも、見ていてほしい。この意地っ張りな心が、なんともかわいい。
看病の場面も印象的でした。自分を後回しにして仕事を引き受ける詠太を、昴は腹を立てながら気遣います。優しい言葉を選べなくても、無理をしてほしくない気持ちは行動に出ている。詠太がそんな後輩を、根に持つ厄介な相手から、素直になれないかわいい相手として捉え始める変化に、こちらまでうれしくなりました。同じ部屋で暮らすからこそ、評判よりも近くにいる相手の姿が見えてくるのです。
「俺の前でもにこにこしろよ!」という詠太の言葉にもキュンとしました。最初は関係をよくしたいという願いでも、読み進めるほど、自分にもその笑顔を向けてほしいという響きが増してきます。詠太の恋は、突然完成するのではなく、相手の態度を気にし、不器用さに笑い、存在を目で追う時間の中で育っていく。その段階を追えるのが、この小説の大きな魅力です。
一方、昴の内面が語られると、それまでの不機嫌が別の表情を帯びます。他の相手との距離が気になるのも、無防備な詠太に苛立つのも、自分の気持ちを扱いきれないから。そこで出てくる「俺ってマジで、本命童貞じゃん」が実にいい。人気者でも、本気の恋には手慣れていない。自分の情けなさまで自覚している後輩に、すっかりやられました。
ただ、甘いやり取りが増えてからも、二人の心は簡単には重なりません。昴は詠太の優しさを知っているからこそ、自分に向けられた感情を同情ではないかと疑う。詠太は相手の未来を大切にするあまり、自分の願いを飲み込もうとする。相手を思う気持ちが、伝えるべき言葉を遠ざける場面には胸が締め付けられました。互いに大事なのに、それぞれが一人で答えを出そうとするもどかしさが苦しいです。
そんな二人だから、言葉を交わし、そばにいることを幸福として受け止める場面が温かい。「あー、マジで幸せ」という昴の飾らない一言にも、こちらの顔までほころびました。親密さの描写も、関係を進める勢いより、相手の気持ちを気遣い、自分も望まれていると確かめる過程として受け取りました。気まずかった部屋に、少しずつ帰りたい理由が灯っていく。その変化にたっぷり萌えました。
男子寮、先輩後輩、美形の年下攻めとお人好しの年上受け、好き避け、嫉妬、不器用な執着が好みの方におすすめします。双方の心理を追いながら、日常が恋に変わる青春BLを楽しみたい方にもぜひ。