レヴィ=ストロースの時事問題などを踏まえたエッセイ集。
1952年の「火あぶりにされたサンタクロース」が最初にあって、そこから一気に1989年に飛び、1年に2つづつくらいのペースでかかれ、2000年のエッセイが最後。全部で17本の珠玉というのがまさに相応しいエッセイ集。
この半世紀にもわたる執筆
...続きを読む期間にもかかわらず、レヴィ=ストロースの物事をみる目は驚くほどの一貫性がある。
人間の思考は、いかに現代的、論理的にみえても、「未開」の思考がふと思いがけなくでてくる。つまり、わたしたち「文明人」と「未開人」の差は、思いがけないほど、近いということ。
「未開というものがあると思う態度こそが未開」であるというレヴィ=ストロースの言葉をいろいろな角度から語っているのだな。(この本を読んで、この言葉の起源はモンテーニュにあるということが分かった)
テーマにあがるのは、商業化されたサンタクロースに始まり、アフリカ系移民による女陰切除、狂牛病、ダイアナ妃の死去、地球環境問題など。
それらの問題を親族構造や神話論理などを活用しながら、読みといていくのだが、その分析はなるほどの鮮やかさ。
そして、その解釈は、とてもラディカルで、現代社会の常識、良識を逆撫でするもの。
レヴィ=ストロースは、どこか静的で、過度に一般法則化してしまう印象があって、構造主義のあとにつづく哲学者などからの批判を受け続けてきたのだが、いやいや、このラディカルさは、ほんと半端じゃないな〜。
ほとんどのエッセイは、最後の主著ともいえる「大山猫の物語」以降のものだが、90才でこの切れ味は普通ではないな。
また、90才を超えて、人類学の知識のアップデートだけではなくて、自然科学をふくむいろいろな領域での知を取り入れながら、思索していることも伝わってくる。
そして、なによりも人を見る眼差しの優しさが印象的。
「わたしたちは食人種と同じだ」と批判したり、絶望したりするのではなく、「食人」や「女陰切除」を含め、どのような文化や習慣であれ、それは私たちとつながるものなのだ、とやさしくインクルードしてしまうのだ。
また、日本の文化への言及もあって、これもまたわたしたちにとって貴重な視点。
世の中が、「わたしたち」と違う文化に対して寛容さをなくしていくように思えるなかで、今、あらためて、レヴィ=ストロースを読むことがどれだけ重要なことか。
これは自身によるレヴィ=ストロースの浩瀚な仕事への入門であるとともに、その仕事がわたしたちの現代にどういう意味をもつものなのかをストレートに表現した本でもある。
これはみんなに読んでほしい!