本書**『ブランディング』**は、日本企業が抱えるブランディングに関する誤解を解き放ち、グローバルで通用する真のブランディングのあり方を示す一冊です。単なる広告戦略やロゴデザインに留まらない、事業戦略と一体化したブランディングの重要性を説いています。
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### ブランディングの現状と本質
日本においては、ブランディングが「テレビCMの発注」や「コンサルティング会社の業務完了」をもってプロジェクトが完了したと見なされ、その後の効果に悩む企業が多いと指摘されています。これは、ブランディングが「作りっぱなしで放置されている家」のような状態にあると例えられます。これまでの日本の経済成長は、...続きを読む 人口増加に支えられた「低い労働生産性でも増える人口とともに経済成長」という構図でした。しかし、グローバル競争が激化する現代において、このやり方では通用しません。
本書では、ブランディングの本質を「**常に変化するビジネスの資産**(Living business asset)」と定義しています。ブランドは、識別性(identification)、差別性(differentiation)、価値(value)を創出し、適切に管理されれば「価格プレミアム」を生み出すことができると述べられています。つまり、ブランディングは「いいものを安く」という経営ではなく、「**いかにして高く買ってもらえるか**」を追求する活動なのです。
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### ブランディングは全社員の活動
ブランディングは特定の部門が担うものではなく、「**全社員の一人ひとり**」が担うべきものだと強調されています。企業が「ブランド」を冠する部門を設けることは、ブランディングがその部門のみの責任であるという誤ったメッセージを社内外に発してしまう危険性があるため、推奨されていません。コーポレートブランドのブランディングであれば、人事・採用、研究開発、商品開発、製造、営業、広報・IRなど、**すべての企業活動の起点にブランドが位置付けられるべき**なのです。
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### ブランドの起源と進化
「ブランド」の語源は、古期スカンジナビア語で「焼き付ける」を意味する「Brandr」にあります。これは、所有者が他人の牛と識別するために焼印を押したことに由来し、当初は単なる識別記号でした。しかし、時を経て品質や評判などの「**見えない価値**」が集積され、情報化されたものが現在のブランドの起源と考えられています。
ブランドは最初、ネーミングから始まります。この段階では企業側にとっては「分類記号」、顧客にとっては「識別記号」に過ぎません。しかし、様々な顧客体験を通じて、その付加価値とともに顧客の頭の中に「焼き付け」られます。
現代においては、ブランドホルダーは企業だけでなく、顧客を含むすべてのステークホルダーとの「**共創**」によってブランディングが成り立つ「共創の時代」が到来しています。もはや「企業主導のブランディングは成立しない時代」であり、あらゆるタッチポイントで共通のメッセージを発し、顧客との間に信頼に基づいたコミュニケーションが交わされることでブランドは共創されていくと述べられています。
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### ブランディングにおける「言葉」の重要性
ブランドは「顧客の頭の中に存在する」ものであり、「**信頼**」がその核を成します。コカ・コーラ創業者の言葉やスティーブ・ジョブズ氏のコメントにもあるように、顧客の記憶や信頼こそがブランドの価値を決定づけます。
ブランディングの成功は、「**ビジネス課題の解決**」につながる活動になっているか否かにかかっています。単にブランディングを実施すること自体が目標となってしまうケースが多い日本企業に対し、本来はビジネス・経営レベルの課題を解決するための打ち手としてブランディングが存在すると示唆されています。
また、「企業名=ブランド」という誤解も指摘されており、原則として企業名とブランドは明確に分けて考えるべきだとして、「マスターブランド体系」「フリースタンディングブランド体系」「エンドースドブランド体系」の3つのブランド体系が解説されています。
ブランドを構築する上で不可欠なのが、そのブランドが「何をするべきか」「何をすべきではないか」の基準を定める「**ブランドプロミス**」です。このブランドプロミスを関係者で議論すること自体が、ブランディングの最も重要な工程の一つとなります。
そして、ブランディングにおいては「**言葉(メッセージ)をしっかり仕組み化する**」ことが極めて重要なテーマです。日本企業に多い「阿吽の呼吸」ではメッセージの統制が難しくなるため、「何を伝えるか(What to say?)」を体系化した「メッセージシステム」や、「どう伝えるか(How to say it?)」である「Tone of Voice」の重要性が強調されています。
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### すべてのステークホルダーとの共創へ
ブランディングは、ロゴマークや広告戦略に限定されるものではなく、人事・採用、研究開発、商品開発、製造、営業、広報・IRといった**すべてのビジネス活動を総動員して、顧客の意思決定に影響を与え、資産としてのブランドの価値を最大化させる**ことが本質であるとまとめられています。
本書は、日本企業がグローバルで競争力を高めるために、ブランディングを経営の根幹に据え、真の意味で「**すべてのステークホルダーと共創**」していくことの重要性を強く訴えかけています。