生物学の権威である著者が、生物進化論について概要をまとめたもの。古い本なので、現在の考え方との相違はわからないが、ダーウィンの進化論をはじめとする、生物進化の歴史的研究の経緯を理解できた。興味深く、役に立った。
「進化のもっとも直接的な証拠は過去の生物の遺体である化石の研究から得られる。異なった地
...続きを読む層に含まれる化石を地層の年代に沿って並べてみると、生物が遠い過去から次第に変化し現在に至った道すじがよくわかる」p6
「メンデルの研究は長い間世に認められず、やっと、1900年になって3人の学者により再発見され、初めて注目を浴びるようになった。メンデルの仕事は35年間完全に無視され、埋もれていたが、再発見とともに突如として日の目を見るようになった(後日、注目していた人も相当あったことがわかる(ブリタニカ百科事典(1881)にも掲載されていた))」p21
「ヒトは、生き物として格別高いものでもなく、樹木の保護を離れた後は、ただ大脳の発達で可能となった抜け目なさだけで生き延びることができた」p85
「過去55万年の間に主な氷河期のうちでもっとも寒かったのは今から約1万8000年前で、その後は温度が上昇し、約1万年前に氷河期は終わり、現在われわれは極めて温暖な時期にいる」p87
「ネアンデルタール人の頭骨の研究から、最近言われていることは、彼らは現代人のように流暢に発音できず、特に「i」「u」「a」のような母音や「k」や「g」のような子音の発音ができなかったらしい。おそらく、話し言葉より、複雑な情報を短時間に伝達するための脳の部分の発達も、現代人に比べてずっと劣り、そのため彼らはクロマニョン人との闘争に敗れたのではないかと考えられる」p88
「(DNA内の情報量(25億字の文章相当))大英百科事典を例にとると、この1956年版は全体で23巻あり、各巻はおよそ1000ページからなり、全体として2億字を含むと推定される。したがって、受精卵核中にヒトを作るための設計書が含まれているとすれば、それは英文に換算して大英百科事典を12セットも合わせたほどの膨大なものになる」p95
「(ダーウィン)有利な変異が保存され、有害な変異が除去されることを私は自然淘汰と呼ぶ」p128
「(遺伝子変異は常時生起している)今までに一度も出現したことがなく、しかも今まで現れたどの突然変異遺伝子よりも個体の生存や繁殖に有利となるようなものは次第に底をついていくはずである。われわれが野生型遺伝子と呼んでいるものは、すべての生物種において、過去、何百万年、何千万年またはそれ以上にわたって、このような淘汰の過程を経て確立されてきたものである」p141
「(141個のアミノ酸)ヒトとゴリラを比較すると、アミノ酸配列は1か所を除いてすべて一致している。また、ヒトとアカゲザルとを比較すると4か所、さらに系統的に離れたウシ、ウマ、イヌ、ウサギなどと比較すると、20個前後のアミノ酸座位について異なっているが、他の部分ではいずれもアミノ酸配列は完全に同一である」p203
「(分子進化の速度の一定性)何億年間もほとんど形態的に変わっていない生きた化石のような生物でも、分子レベルでは進化の速度はほとんど同じであるという驚くべき結論が得られる」p206