金正恩体制、核・ミサイル実験、日本人拉致問題等、時折、ニュースになりながら、いま一つ実態がよくわからない北朝鮮。
その北朝鮮に観光で訪れることができるのだという。そういえばスキーリゾートの映像を見たことがあるが、あれは政権上層部が楽しむものではなかったということか。確かに観光なら外貨も入る。客が滞在
...続きを読むを楽しむことができれば、体制の宣伝にもなるだろう。
本書の主題は、北朝鮮の観光である。
但し、観光体験記とか、物見遊山でどこへ行って楽しかったおもしろかった、という類のものではない。
外部からは限られた情報しか入手できない北朝鮮について、観光に関する情報から北朝鮮情勢について考察するのが目的である。
著者は、30年近く、ツアーのパンフレットや関連文献、インターネット上の情報などを収集してきている。
それらを元に、北朝鮮観光の特徴、観光戦略、日本人観光客の受け入れの変遷、韓国人観光客の受け入れ例、各国で発行されたガイドブックや旅行記から見る北朝鮮観光について考察していく。
著者は実際に何度か北朝鮮を訪れてもいるが、限られた範囲しか見ることができず、その実態に迫るのは非常に困難である。観光は多様な資料を入手しやすい数少ない分野の1つであるという。
序章では、北朝鮮を理解するための基礎知識に触れている。
ここで興味深いのは、そのイメージが世界共通ではないという指摘である。日本の報道だけ見ていると気づきにくいが、北朝鮮の核実験やミサイル実験に対して、日本が抱く反発と同程度の反応が全世界に共有されるかと言えばそうではない。物理的な距離も違えば、歴史的な背景も様々である。
北朝鮮を理解するうえで、広い視野が必要という指摘には説得力がある。
日本から北朝鮮を訪れる観光客は、1990年代には3千人を超えることもあった。だが、現在では、日本側から渡航自粛勧告が出ていることなどもあり、2018年の1年間では400人未満であったという。
中国や韓国を経由するのが一般的なルートとなる。個人旅行の形ではなく、ツアー形式で、3食付き、添乗員が同行する。ツアーで決められたレストラン以外のところで食事をすることも可能だが、この際も運転手や案内人の同行が必要となる。その他、最高指導者には職名を付けることや指導者の肖像の撮影の際には一部で切れないようにすること、また建築現場や軍人・警官の撮影は不可、人物撮影には事前に承諾が必要であるなど、細かい注意も多い。
ツアーの窓口となるのは、中国や韓国の旅行会社でも、最終的に国内の観光を取り仕切るのは、北朝鮮国営会社の朝鮮国際旅行社となる。
平壌観光の主体はやはり最高指導者関連の施設が多いが、風光明媚な名勝地やショッピングを楽しむことも可能である。
名物の冷麺やアヒル料理、アイスクリームなどが食べられるツアー、スキーやゴルフなどのスポーツを楽しむことをメインとしたツアーなど、多彩なツアーが出てきている。
近年では、いわゆる「インスタ映え」するような行先が選ばれていたり、観光ウェブサイトの充実も進みつつあったりする。但し、北朝鮮国内でのネット環境自体はあまり整ってはいないようだ。
現在の関係性からも、日本から北朝鮮への観光客が近いうちに大幅に増えることはないだろうが、実際に現地へ行くことでしか伝わらない「空気」というのは確かにあるのだろう。さて、行ってみたいかと聞かれると即答はできないが、興味深いものはある。
謎のベールに包まれた国を垣間見る、おもしろい視点の1冊である。