「自国通貨を発行できる国は、財政赤字を膨らませても問題ない」という衝撃的な主張をしている現代貨幣理論(MMT)の入門書。アメリカの経済学者による著作であるが、日本では中野剛志氏などが同様の主張をしている。財務諸表については勉強したばかりであるので、ある程度は理解できたが、難解で理解できない部分もある。お金はいくら刷っても問題ないとはいえ、インフレへの警戒も強調しており、要は程度の問題なのかもしれない。確かに巨額の財政赤字を抱えながら更なる国債発行を行っている日本も、一向にインフレに向かう気配はなく、MMTは正しいようにも思える。貨幣についての考え方も納税の所要からその価値を説いているが、ビットコインなどを否定している点では、多くの研究者と考えは一致しているようだ。正しいか否かは定かではないが、概要は理解できた。
「政府と民間という2つの部門から成る経済においては、民間部門によって保有される純金融資産は政府によって発行される純金融負債にぴったり一致する。もし政府が支出と租税収入を常に一致させ、均衡財政を保つならば、民間部門の純金融資産はゼロになる」p54
「(国内民間収支)+(政府収支)+(海外収支)=0」p59
「(ケインズの倹約のパラドクス)総消費を減らして貯蓄を増やそうとすると、貯蓄は増えず、所得が減ってしまう」p75
「GDP=消費+投資+政府購入+純輸出(これは国民総所得に等しい)」p103
「(貯蓄—投資)+(租税—政府購入)+(輸入—輸出)=0」p105
「租税の不払いに対して課される罰を避けるために、納税者は政府の通貨を手に入れる必要がある」p120
「金利(γ)がGDP成長率(g)を上回っている場合に限って、債務比率は上昇する(ガルブレイズ)」p145
「非政府部門の純貯蓄は、所得と貯蓄を創造する政府の赤字支出の結果だと考えるのが最もよい」p228
「貨幣が租税などの強制的な義務を履行するために必要とされる限り、そうした義務が貨幣に対する需要を創造する。つまり、納税者が貨幣を必要とするので、政府は貨幣を発行してモノを買うことができる」p272
「租税が貨幣を動かす。主権を有する政府は、支出をするために自国通貨での歳入を必要としない」p272
「米国(あるいは、英国や日本、いずれも巨大な赤字国である)の現在の、あるいは将来見込まれる条件の中に、ハイパーインフレはもちろん、高インフレを予想させるものは何一つない」p456
「重要なのは、政府は物価安定とともに完全雇用を促進すべき」p484
「「モノとしての貨幣」の制度としての本質は何か?最も明白な共通の特徴は「負債の証拠」だということである」p496
「(金利を下げても企業は簡単に投資はしない)企業をだまして投資させるためには、妖精の粉を大量に撒く必要がある」p505
「(金利と投資と需要)投資を増やすことは需要不足の解決策にはなりえない。つまり、投資を増やすと総需要が増える以上に総供給が増える」p506
「(MMTは、債務や赤字の持続性に関する議論に負けている)政府がキーストローク(お金を刷る)によって支出することは「不道徳」だからだ」p520
「(まとめ)
・通貨発行権のある政府にデフォルトリスクはまったくない。通貨が作れる以上、政府支出に財源の制約はない。インフレが悪化しすぎないようにすることだけが制約である。
・租税は民間に納税のための通貨へのニーズを作って通貨価値を維持するためにある。総需要を総供給能力の範囲内に抑制してインフレを抑えるのが課税することの機能である。だから財政支出の帳尻をつけることに意味はない。
・不完全雇用の間は通貨発行で政府支出をするばかりでもインフレは悪化しない。
・財政赤字は民間の資産増であり、民間への資金供給となっている。逆に、財政黒字は民間の借入れ超過を意味し、失業存在下ではその借入れ超過(貯蓄不足)は民間人の所得が減ることによる貯蓄減でもたらされる」p528