本書の著者は、(元朝日新聞の)南彰さんと(東京新聞の)望月衣塑子さん。
両者とも安倍政権から数多くの圧力を受けているので、「ウソや言いわけ」をかき集めた批判本かも?と思っていた。
読んでみたらそんな自己満足に浸る要素は無く、淡々と事実の列挙に徹した内容だった。
南彰さんは「ファクトチェック」に早く
...続きを読むから取り組んでいた人でした。
本書は「ファクトチェック」の手法の実施例だと気づいたので、
途中で中断して「ファクトチェック最前線」という本を先に読み、本書に戻ってきた。
最近はAIが生成した偽情報も蔓延しているから、ファクトチェックの重要度が増していると思う。
信頼する人が偽情報のリツイートやいいね!をすることもあり、誰もが騙されやすい環境にある。
「ファクトチェック」では判定のために参照した情報は何かを確認することも大切だ。
例えば「福島の海洋放出処理水」の放射能データが東電の測定結果だけだとすると信用できない。
「ファクトチェック」に当事者が関わると嘘や隠し事が混じるからだ。
チェックする人の考えや想像が入っていてもいけない。
「~なのでしょう」「~かもしれません」「~はおかしい」といった個人の感想は厳禁です。
本書のように、あくまでも事実の積み重ねだけで真偽を判定しなければならない。
信頼できるファクトチェッカーを知っておく必要がありそうだ。
チェック対象に選んだ発言は、予算委員会や記者会見でのものが多かった。
チェックという目的があるので、発言の一字一句を正確に再現している。
本書の性格上、精読が求められるので読むのに時間がかかった。
特に安倍総理の答弁は読んでいてイライラするし疲れた。
口癖の「いわば」「つまり」「まさに」「~の中において」「~なんですよ」が気になってしまう。
後に続く言葉が「いわば」でも「つまり」でも「まさに」でもない内容だし、
質問の答えでないことを長々と話すので何を言いたいのか伝わってこない。
対して菅官房長官は、ぶっきらぼうで短く「~じゃないですか」「それが全てです」「~はありません」と言葉が足らなすぎる。
本書はチェック対象の発言を、〇△×の3種類で判定しているが、本来は6種類ほどに分類しているようだ。
虚偽があれば × としており、虚偽の証拠となる文書も明記されている。
正しい場合は 〇 だが、嘘ではないが都合の良いデータを用いていたりする。
そのデータを根拠とすると真実が見えなくなるという、結論に合うデータを見つけてきたというもの。
△は個人の見解によって解釈が分かれるようなものが多いと感じた。
例えば、「状況はコントロールされている」という発言。
"状況は"が何の状況なのか不明確だし、どんな状態ならコントロールされたと言えるのかも曖昧である。
チェック対象はほとんどが政権側の発言だが、野党側の間違いも取り上げられていた。
そのうち一件が蓮舫さんだが、確かに蓮舫さんは勢いで未確認のことを口にする傾向があり反撃に遭いやすい。
それにしても安倍政権は、嘘や嘘を正当化する言い訳が多すぎた。
アメリカではワシントン・ポストがトランプ氏の発言のファクトチェックをデータベース化して公開していた。
日本ではどうなのか調べていないが、記者クラブに属している大手マスコミではできないだろう。
だから(集英社から)こんな本が出版されることになる。
議論の内容の「ファクトチェック」では、両者の発言がいずれも事実関係に誤りがなく○×判定ができないこともある。
単に言葉尻を捉えるのではなく、本質の問題は何かを明らかにすることに注意を払いたい。
あと、「文書はない」「文書は廃棄した」「記憶にない」「確認できなかった」という答弁が目立つ。
国の行政機関の文書管理が杜撰で、将来に証拠を残さないという隠蔽体質が心配になる。
日本は、きちんと記録を残し、保管、開示する仕組みを作り直さなくてはいけないね。