シャラポワが書いた自伝。シャラポアが、すごい境遇に育ったすごい選手であることがよくわかった。
「誰もがやめてしまったあとでさらに5分間動くプレーヤー、風がふきすさび、雨が降りしきる中で第3セットの後半まで辛抱し続けるプレーヤーが勝利する。それが私の才能だった。強さやスピードではない。スタミナだ。私
...続きを読むは一度もテニスに飽きたことがなかった。何をやっていても、永遠にやり続けられる。そんなことが好きだった。ひとつひとつの課題に取り組み、きちんとできるようになるまでやめないのだ。子供のころですら、そんな課題や退屈な作業が勝利に役立つだろうとわたしはわかっていた。みんなを負かしてやりたいと思っていたのだ」p24
「(大使館の役人)この男がわたしたちに発行してくれたのは有効期間が3年のビザだったが、まさに稀な、はかりしれないほど貴重なものだった。アメリカとロシアを自由に行き来できる黄金チケット。現在のロシア人にも、これがどれほど奇跡的だったか、とても想像がつかないだろう。我々(父と6歳の女の子)が獲得したようなビザはほとんど入手が不可能だった。この男性があらゆる出来事を起こすきっかけをくれたのだ」p34
「アメリカに来たばかりのわたしたちは何度となく見知らぬ人に助けられた。まったく計画外のことだったけれど、わたしたちはためらわずに幸運にすがった」p40
「あとでわかったのだけれど、問題が1つあった。父の話がとても信じられないと思われてしまったことだ。こんな女の子とふたりだけでロシアからやってきたことや、世界に通用するテニスができる子供を連れてふらりとアカデミーに立ち寄っただけということが。そんな話をアカデミーの人たちは真に受けなかった」p41
「ニック(責任者)から、ある申し出がなされた。わたし(7歳)はアカデミーで生活するにはまだ幼すぎるが、そこでトレーニングしてもいいというのだ。1日中、毎日でも練習できる。しかも無料で。昼食と夕食はアカデミーのカフェテリアでとってもよかった。アカデミーは私たちが暮らす場所さえも見つけてくれるという。しばらくの間、未来は保証されたかに思われた(しばらくして他の親の指摘を受け追い出される)」p48
「わたしは不平を言わない。ラケットを投げつけもしない。ラインジャッジを脅しもしない。途中でやめることもない。わたしは相手に何一つ与えるつもりはない。カントリークラブや美しく刈り込まれた芝生で育った人たちは、絶えず進み続ける女に慣れてはいないだろう」p57
「(シャラポワは、6歳の時、麻酔なしで目の腫物の除去手術を受けたが、全く泣かなかった)」p57
「わたしは感情を持たない、恐怖を感じない。氷のようになる。ほかの女の子とは友達にならなかった。そんなことをすれば、私は優しくなり、さらに負けやすくなるから」p59
「きみはほかの女の子たちをビビらせた。とりわけ、エレナとタチアナを。彼女たちを震え上がらせたんだ」p59
「(IMGとの交渉)父は5万ドルくらい必要だといった。それ以上のお金が必要だろうと、結局、1年あたり10万ドルほどになった」p96
「わたしは11歳で、年5万ドルにプラスしてボーナスという、ナイキとの初めての契約にサインした。そのころそんな契約がどれほど異例かを理解していなかった。ナイキが11歳の子供に投資するなんてことが。IMGのように、ナイキもわたしの才能を信じたのだった。彼らはわたしに賭けたのだ」p97
「生まれて初めて、この世界がどんなふうなのかをいくらか理解した。テニスはスポーツだが、単にスポーツというだけではない。そこに情熱はあるが、ただの情熱だけではない。これはビジネスだ。お金なのだ。自分がやっていることの理由をようやく理解した。その瞬間から、私の任務ははっきりした。ひたすらコートに出て勝つことだ」p97
「(強い親の存在の必要性)来る日も来る日も外へ出て、眠りたいとかテレビゲームをやりたいとしか思っていない子どもに練習させられる人間が、親以外にいるだろうか。自分の意志で練習したがる7歳の子どもや、状況が悪くなった時に踏みとどまれる子どもは世の中にいない。でも、自分をずっと応援してくれる誰かがそばにいれば、話は別だ。テニス・ペアレントのような親たちがいなければ、ウィリアム姉妹やアンドレ・アガシやわたしが世に現れることはなかっただろう」p145
「いつ終わるともわからないツアー。80日間で世界を1周する。世界中を旅しながらも、何一つ見ることはない。いつも同じ顔ぶれ、同じライバル、同じ争い。毎日が同じ日。繰り返し、繰り返し」p154
「ウィンブルドンの地へ行くと、生まれ変わったような気がした。わたしはいつもウィンブルドンの華やかさに驚きを覚えた。ホテルを出て、申し分ない小さな町に入っていくと心からほっとした」p155
「集中力とはただ何かに注意を向けることではなく、物事をシャットアウトすることでもある。ほかの世界を取り除いてしまうことだ。どんどん取り去っていき、最後にはこのコートと、向こう側に立って操り人形のようにあちこちへ動こうとしている女子プレーヤーだけになる」p188
「(ウィンブルドン優勝後)ツアーで新たに私が対処しなければならなくなったのは、嫉妬心だった。ほかのプレーヤーが私を快く思わないのは、コート上で負かされるからでも、自分より優れた選手だからからでもない。いまいましい宣伝の仕事を私にすべて奪われたからだ。そのせいで気が狂わんばかりになった女子プレーヤーもいた。「エレナは日本で契約を取れないのよ。マリアが根こそぎさらっていくせいでね」」p225
「大会の会場や記者会見の雰囲気も変化する。冷ややかで張りつめたものになる。急に世界が、これまで知ってきた唯一の世界が、自分に好意を持たない女子だらけになるのだ。彼女たちはお金や名声をうらやんでいる。優勝者が手にしているものを欲しがっていて、彼女たちがそれを獲得する唯一の方法は、相手をやっつけることなのだ」p228
「(引退の時期を迎えたシャラポワのコーチ就任に気が進まないスベン)「今、きみは何のためにプレーしているんだね」と尋ねた。きみは答えた。「みんなを倒したいからよ」その瞬間、私は言ったんだ。「よし、やるぞ」とね」p298