NTTデータの技術者が書いたAIの解説本。こういう本を出すことができるのはNTTグループの一員たるNTTデータとしての懐の深さを示しているように思う。
この本の内容を執筆して書籍化した理由として、AIについて「何でも回答してくれる便利な技術」という先入観を捨てていただき、本当の意味でAIを理解して
...続きを読む欲しい」からだという。確かに、AIは適用領域によって、検索、分類、予測、異常検知、関係性の発見、など多岐にわたる技術の組み合わせであったり、可能性の拡張であったりする。AIということでひとくくりにしてとらえるにはあまりにも広い概念である。
そもそもAIに得意なこと、苦手なこと、をきちんと理解をして、適用すべき領域を定めることがまず重要であることは間違いない。著者の分類としては、「知識探索・俯瞰」「知識発見・意思決定」「コンテンツ生成」「コミュニケーション」「知覚・制御」に分けているが、これが唯一の分類法というわけでもない。ただ、カテゴライズすることで一定の全体観を把握することには役立っている。
また、具体的な適用分野として、自動車、製造業 (工場、倉庫)、医療(診断、遺伝子解析、創薬)、セキュリティ、コマース (チャット、店舗)、教育 (アダプティブラーニング、ゲーミフィケーション)、マーケティング (広告、自動化)、コンテンツ制作、などを挙げている。このリストにはこれからもっと多くのものが入ってくるだろう。
また、こういう実務に近いAIの本では常にAI人材の確保と育成の話が出てくる。スター研究者がGAFA/BATに雇われるようになり、技術者数も桁違いに多い数を雇っている。ただ、これから実際の応用となってきた場合には、①ビジネスがわかる、②データ分析ができる、③データ分析プログラムをシステムに落とし込める、という3つの要素を持つ技術者が必要になる正しく指摘する。
また、データの取得も重要な戦略になってくる、として、MicrosoftによるLinkedIn、GoogleによるNEST、SoftbankによるARMの買収を挙げている。
筆者らは、AIブームをそろそろ終わらせてもいいのではと考えている。期待が指数関数的に高まっている中で、実際の結果に対して幻滅することが起きてくるのではないかと。しかし、それでも技術としてのAIの進化はこれからも進んでいくのであり、効率性も含めてAIをわかる人材を企業の中でも、大学の中でも、社会の中において育成していくことが必要になるのだろう。読みやすくてよい本。