中学生の頃のピアノの楽譜入れだった母の手作りのお洒落な鞄がひょっこり出てきて、中を開けるとこの本がひっそりと息づいていました。
『マルテ・ラウリス・ブリッゲの手記』の作者は、134年前の1875年12月4日にオーストリアのプラハに生まれた詩人で小説家のライナー・マリア・リルケ、スイスに移り住み薔薇
...続きを読むの棘の傷がもとで白血病によって51歳で死去。
これは、孤独な生活を送りながらパリの街で出会った人々や芸術や自分自身の思い出などについて、デンマーク生まれの青年詩人マルテが思いついたことを断片的に書き綴っていくというスタイルで書かれた彼のたったひとつの長編小説です。
この本は中1と中2のときに4度読んだのですが、読んだ後の1、2カ月はまるで何かにとりつかれたかのように、普段の自分じゃないような落ち込みようで、当時の私の心情にもっともフィットする雰囲気の小説でした。
パリの町を京都の町に置き換えマルテになりきって孤独と赤貧を自らのものとし、生死の不安に苛まれて苦悩するという時間を持ちました。
初めはその中に沈潜してペシミスティックに埋没して、絶望のどん底という風でしたが、そのうちにそれらを覆すような内心の声に導かれて、今まで断定的に語られていた、あるいは疑問形で問いかけられていたことに対して、違う視点で発想して、行き詰った結論をもういちど洗い直していこうとするような風に変わっていきました。
ちょうど同じような世紀末のいわれのない絶望感や虚無感を共有していたのでしょうか、私は奇しくも頽廃の一歩手前で踏みとどまって生還しましたけれど。
あの頃の読書は、今から考えると、意図した分けでもないのにどこかで繫がっていたようですが、彫刻に手を染めるきっかけの『考える人』のロダン、ドストエフスキーを深刻に読む以前の親しみやすいロシア文学だった『はつ恋』のツルゲーネフや『アンナ・カレーニナ』のトルストイ、『悪の華』のボードレールや『狭き門』のアンドレ・ジイド、『魅せられたる魂』のロマン・ロランや『テスト氏』のヴァレリーなどなど、リルケが影響されたとか交流があった人たちは皆、私にとっても親しみ深く何がしかの影響を受けた間柄でした。
※3行追加しただけで2009年に書いたものがすべて消えてしまって、全部2012年4月24日に登録したことになってしまいました。私のように推敲して書き改めることもあるというスタイルに適合しない機能のようです。