米麹、甘酒、酢、みりん、糠漬、塩辛、熟れずし、豆味噌、たまり醤油、白醤油……このところ発酵ブームで世間は賑わっておりますが、発酵保存食は手間と忍耐のすえに菌環境が整ってはじめてできるもの。なんでも作ってしまう著者の情熱がすごい。
衛生環境を守って食中毒を防ごうとするのは当たり前だが、細菌と共生する
...続きを読むことを「汚い」こととして必要以上に潔癖に囚われたがゆえに発生してきた現代病もある。
白か黒ではなく、域値の存在しないグラデーションの中でちょうど良い塩梅でお互いに心地よく折り合うこと。これって結局、人間同士でも同じことなんだろうな。合理的でないもの、自分では100%コントロールできないものとのうまいお付き合いの仕方。
p.170
「発酵食づくりに使う米、麦、雑穀、大豆などの「穀物」、季節の「旬野菜」と「旬魚」は、日常の基礎食品でもあります。それらの原材料をさらに整理、簡素化すると、発酵食づくりの土台は米、豆、魚の三つの基礎食材で成り立っていることに気づきました。これは日本だけのことではなく、アジアの稲作地帯に共通して見られる傾向です。
水田には米があり、畑には豆や野菜があり、それを潤す豊かな水源には魚が繁殖する。この三つが関連し合う産物は豊富であるがゆえに発酵という加工法を経て保存食や調味料になり、その地域特有の郷土料理や味つけになりました。
食糧を末永く保存する知恵は、太古の祖先から引き継がれた飢えに対する備えの記憶かもしれません。また、発酵という長い時間の過程を経て生み出された天然アミノ酸の旨味や滋養を人間が好むのも、それが健康や思考に寄与することを知っているのも、DNAに組み込まれた潜在的なサバイバルの記憶のおかげかもしれません」