著者は「京都グルメタクシー(登録商標)」の運転手。グルメタクシーとは、その名の通り、観光案内をしつつ、おいしいお店にもご案内しようという一石二鳥の観光タクシーである。客の要望に併せて、プランを立ててくれるという。なかなかおもしろいコンセプトで、名所近くのグルメスポットを知ることが出来て、しかもそこま
...続きを読むで連れて行ってもらえる、というのは、時間が限られた観光客には効率的でもある。
私は本書で初めて知ったが、テレビなどを初めメディアにも取り上げられ、グルメ番組や記事のレポーターとして活躍したり、ミステリ・ドラマの主人公モデルになったりしているそうだ。
序章では、「グルメタクシー」が出来るまでの道のりに触れられている。元々はフランス料理のシェフを目指していたのだそうで、現地での修行経験もあり。帰国後は、半分は渡仏資金作りのために始めたタクシー業が案外と性に合っており、食べ歩きをしつつのドライバー稼業。
おいしいものを食べるのが好き、自分の知ったおいしいものをみんなにも教えてあげたいと始めたブログが人気になり、いつしか趣味と実益が結びついた「グルメタクシー」のアイディアが生まれた、というところのようだ。
なるほど、食べるのが好き、しかも料理の知識もばっちり、そして運転も好き、人とのふれあいが好き、となれば、最強のコンシェルジュ兼ドライバーというわけである。
本書では、「グルメタクシー」ドライバーがとっておきのお店を紹介する。
『京都しあわせ倶楽部』(編集主幹:柏井壽(作家))と称する新書シリーズの1冊である。
料理の写真もイラストもまったくなく、グルメ本としては地味な作りだが、いやいや、読んでみるとこれが結構おもしろい。
ブログが前身の文章はすっと入ってきて読みやすい。時々「♪」が入るのもご愛敬である。文章だけで料理の説明がこれほど出来るのか、というのにも感心する。どんな料理か思い浮かばせ、想像をかき立て、へぇぇ食べてみたいな、と思わせるのは、サービス精神の賜物だろう。
最も長い第1章は、著者自身も修行経験があるフランス料理。
京都と言えばやっぱり和食だよね、という第2章。
そして意外に多彩な各国料理を紹介するのが第3章。
第4章は普段使いの隠れた名店。
第5章ではあちこち歩いて疲れたら一息つけるカフェや甘味処。
そして最後の第6章は、帰りの列車でも京都グルメ、テイクアウトが出来るお弁当やパンである。
巻末には地図やお店の基本データもつく。
よく耳にする有名店、名前は聞いたことがある店、行ったことがある店も何軒か。総じて、お手頃価格で行きやすいお店が多い印象だ。もちろん、「一見さんお断り」なんてことはなさそうだ。
何事も熱意と研究。時間を掛けて、著者自らが回った店の紹介は、料理人としての経験に裏打ちされて楽しく深い。
カバンにも忍ばせやすいサイズ。京都観光のお伴にもよさそうな1冊である。