一言で表すなら、良作には間違いないです。
あまり本を読み慣れてない方でも比較的読みやすい本だったと思います。
内容もそれほど難しいことをやっているわけではなく、オーソドックスな作りでした。
という建前は置いておいて、感想の方を書いていこうと思います。
この物語は、『シノニム』がキーワードです。
これは少年、少女たちのココロを癒やす心のしくみとでもいっておきますか。
一般的にいえば、多重人格と考えてもらうとわかりやすいかもしれません。
本当の自分が消えてから、3人の妹となった1人の少女と兄の話――という建前でした。
言葉というのは、不思議なもので、そう言う風に冒頭で書かれてしまうと、
そうなのだと勝手に脳内上書いてしまいますね(兄視点ではありましたが
この物語は、MF文庫作品としてはあまり見ない作風と内容だったように思います。
ここまでただシリアスな話は、みない印象(あるかもしれない)
ただ、この話は一体誰が主人公なのか、若干のわかりにくさがあります。
もちろん、主人公がいない物語は多々あります。
これもおそらくそういう物語の1つなのでしょう。
とはいえ、1巻だけで物語るには、彼女たちの魅力が少なすぎ、わかりにくかったかなぁ?
短すぎても、長くてもダメなのでしょうけど……。
実は、主人格である『なずな』の魅力があまりわからなかった。
それぐらい、最後はちょっとペースが早い。
もちろん、あの3人の欠片が集まったのが彼女という複雑な状態です。
彼女たちを見るということを考えてみると、それは『なずな』の一部ということになるのかな?(物語で書かれているように
色々と踏まえた上でーー
プロローグはいわゆる謎編でした。
いったい誰が兄にキスをしたのかという問題。
ずっと好きだったという告白は一体、あの妹達の誰なのだろうか。
そういうことを考えながら、読みつづける本なのだっただろうと推測しましたが、実際は違いました。
普通にシノニムを治す少女の話でした。
でも、プロローグを読み返してみると、なるほど確かに『なずな』っぽいなという節があります。
そしてそれはなずなが彼女たちでもあるということを実は示唆しているように思えます(兄目線だと)。
さてプロローグが終わり……やっとはじまるこの物語は、それぞれ3人の周りにいる人から彼女たちへ向けたものから始まっていきます。
あいりのばあいは、別ですが(それは後で詳しく)
この3人に魅力がないわけじゃないです。
他にはもちろん、兄や、みずき、ゆうといった個性を持ったキャラクターがいます。
ただ、内容のボリューム的に最初の彼女が話の大部分(インパクト)を持って行きます。
そして、もちろんそのインパクトの次の彼女で余計にインパクトが現れることになります。
ページ数でいうと、そこまでで半分ほど過ぎます。
らんかが消える時が、少女らしさを醸しだしてました。
いつまでも夢を追い続ける少女。
あかねは、弾丸少女と呼ばれたかつて幼なじみの憧れを……。ある意味これは過去編に近いかな。幼なじみというキャラクターがいることにより、彼女の周りにそういう人がいたということを直接的に表現しています。
で、最後に残ったあいりはというと、結局のところ主人格である誰かさんのためのお話でした。
なので、魅力を出しきる前にいなくなってしまったかなぁって感じがします。
もちろん、魅力が生まれ過ぎたら……彼女たちが消えた瞬間、お兄さんの状態になるでしょうね。
物語の構成上『章のタイトル』、そして『挿絵』を見て、意味合いを考えると最後に残ったこの人格もおそらく消えるのでは、という空気が強かったかな。
そしてその予想は外れることはなかったですね。
ここで、私はこの物語がどう終わるのか考えるのをやめました。
だって、普通に主人格がかえってきてハッピーエンドだったら、悪くはないのだろうけど、展開としてちょっとみたい風に思っていました。
話はちょっと戻りまして、
過去のお話があるあかねは、なんとか元気ある走るの大好き少女というと、対象的に印象が弱いあいりは、印象が弱いままデートして消えちゃった感じがします。
なので、ボリュームがやはり3人、そしてなずなで均等にあったら、きっともっといい作品見えたと思います。
もちろん、蛇足感がある物語がそうしたことによってなってしまう可能性もありますがね。
シノニムについてですが、あとがきにもあるように、これもそういう心の病気の一種。
これをどうにかするには、もう一度同じ原因と接触するというのは避けられません。
そのため、あのまま母親とあわないで学校を卒業してたらどうなんでしょうかね?
『なずな』が『なずな』のままいられたのか?
あのビデオレターを見つけることもなかったのか?
兄との関係は進展したのか?
非常に気になるところではあります。
と書いてみましたが、
作中で父親が説明する通り、なずなの姉がなくなって母親が精神的に病んでしまったがために、なずなに強くあたってしまって、消滅したという事実があります。
そしてその母親が精神的に落ち着いた時、自分の娘に再び会いたいと願うのは自然のことでしょう。
それが母親でいうところの愛なのですから。
だからこそ、あの再会は必然でありましたね。
あのタイミングは、ちょっとリズムが早すぎてなんかじゃとは思いますがね。
もう少し、なずな(母親と接触する前の話)が欲しかったかなぁ。
あと、エピローグ部分の1年間というのも、もう少し語れるものがあったら、よりなずなというキャラクターの印象が強くなり、魅力のあるキャラクター(少なくとも兄が惹かれる何かが読者が感じやすくなったのではないかと思いました。
ベッドの下に隠れたり、掃除用具入れに隠れたり、授業以外は兄から離れないとか可愛い部分はあるのですが、それは人が怖いという部分であり彼女からしてみればわるいところです。
兄がいう頑張ろうとするなずな。
それがもう少しアップアップしてれば、良かった。
彼女たちの欠片がもう少し……分かればね。
自分から自分への愛。
望まれて生まれたわけでもない自分たちが、ありがとうと未来を託すというのは、心がぎゅっとされますね。
あかねの言葉が痛い。
正直な話をかくとすれば、もう少しなずなとの話が読みたかっただけです!
そんな感じで、私はこの作品は良作であっても……ボリュームが足りないという感じです。
最後に
この物語を読んだ後は複雑な気持ちになりますね。
彼女たちを少しでも知ってしまったからこそ、いなくなってほしくなかったという気持ちがわからなくもない。
でも、主人格である彼女に頑張って生きて欲しいという彼女たちの愛もわからなくもない。
素直に兄さんが受け入れた心と、なずなが3人の愛を受け止めて頑張ろうとする心はすごいと思いました。