「世界言語」という特殊設定で紡がれる言語SF第2弾。以前は見受けられなかったラノベっぽい冒頭から始まり、全体的に文章の角が取れて丸くなっており、前作にあったとっつきにくさは多少緩和されている。それでも初期ブギーポップのような薄暗さは健在で、言語SFらしい膨大な情報量と綿密な設定は少しも損なわれていな
...続きを読むい。今作は認知心理学やクローン問題、人工知能を交えて人間という存在の拡張にまで踏み込んでおり、読み応えのある骨太に一冊に仕上がっている。
ストーリーは謎の事件を追う異能サスペンスに、少年少女の淡いラブストーリーという二重構造になっており、前作の逃走劇とはうって変わって異能が絡む捜査を主体にした追走劇という面白さがある。言葉から感情や情報を読み取る少女燈下千里と、前作最強キャラのサイコパス少女である語羅部鵬珠が組んで事件を追うという構図は羊たちの沈黙のような、どう転ぶか分からない怖さがあり、ジョーカーキャラである鵬珠を上手くコントロールする脚本力には舌を巻いた。特に面白かったのは富士城雪乃の録音機を巡る警察とのやり取りである。奪った録音機で録音するという相手を信用せずにとった行動が、後に相手を信頼する会話をしたことの証明になるという逆転は素晴らしかった。こういう美味しいネタを小ぶりに奮っていく贅沢さと手腕は見事である。
前作の主人公とヒロインである虎風と姫晴が今作では脇に回っているのが口惜しいが、その代わり、本作の鍵を握る粟生亜季と服須大地がその代役とでもいうべき役割を背負っており、少年少女のラブストーリーという側面でサスペンス一辺倒の話に彩りを添えている。ただ、ボーイミーツガールは前作からの持ち味ではあるのだが、話やキャラクターの能力の性質上、前作の主人公とヒロインを今回の事件に大きく絡ませられないから、同じような位置に置くために作ったキャラクターのようにも見えてしまい、そこだけは不満であった。一応ネットゲームを通して関わってはいるものの、能動的に解決にはあたっておらず、関係者ではあるが話の中では部外者である。
ラストはやや拍子抜けと言うか、情報屋の仕掛けたゲームというのは少し凡庸な気もするし、倫理的には首をかしげる部分が多かった。怪物になりかけたヒロインがあっさり救われたのは、ご都合主義というより駆け足めいたような感じがしてしまい、ヒロインの犯した罪の償いに関することや今後の境遇がほとんど語られないのも尻切れトンボのような印象を受けてしまう。それでも返礼のキスを「その福音は、二度鳴った」という末尾で締めるセンスは素晴らしく、あえてあっさりしたオチでも許してしまう。総じて読みにくさは残るものの、シリーズの続きを追いたくなる作品であることは疑いの余地はない。