スキル、アップ、疲労回復、フィジカル、テーパリング、メンタル等、自分が元々コンディショニングと捉えていた範囲ではなく、目的を達成するために必要とされるあらゆる要素をよりベストな状態に調整するために、パフォーマンスに影響を及ぼす内容について広く記載されている。
もちろん中には知ってることもあるが、
一部の領域の知識ではなく、
競技スポーツを行う上で必要な知識を
幅広く科学的に知ったり整理するのに、
選手や指導者にとってはとても役に立つと本だと思った。
また、一般論というより、
研究・実験結果という形で記載いただいているので、
とても説得力があって大変参考になる。
下記、本書で覚えておきたい内容。
序章 野球選手の体を整える「コンディショニング」とは?
・体脂肪量を除いた体重は除脂肪体重(Lean Body Mass)と呼ばれ、筋肉量のひとつの目安とされている
・身長当たりの除脂肪体重の計算
体脂肪量(kg)=体重(kg)×体脂肪率(%)
除脂肪体重量(kg)=体重(kg)-体脂肪量(kg)
身長当たりの除脂肪体重量(kg/m)=除脂肪体重量(kg)÷身長(m)
第1章 打撃を科学する
・スイング速度が速くなくても、投手が投げるボールが速いほど打球飛距離は伸び、投手が投げるボール速度が変わらなくても、スイング速度が速くなると打球飛距離が伸びる
・打球飛距離と打球速度との間には強い相関関係がある
・体重とスイング速度の関係よりも、除脂肪体重とスイング速度の関係のほうがより強い相関性を示している
・除脂肪体重の増加が多いほど、スイング速度の向上に大きく貢献していることを示す結果になっている
・除脂肪体重が低下するとスイング速度が低下することも追跡調査をすることによって明らかになっている
・握力、背筋力、メディシンボール投げの各種能力が向上すればするほど、スイング速度が向上する
・相関関係があるからといって特定の能力向上だけを全員で実施すればよいわけではなく、選手個々に自分の特徴を知り、どこにターゲットを絞ってトレーニングするかを考えることが重要
・スイング速度の安定性が高打率に影響している
・熟練者のほうが主観イメージと、客観イメージが合っている
第2章 投球を科学する
・除脂肪体重量の増加は、オーバースロー投手の速球向上に深く関係する可能性がある
・速球が速い群は下肢の筋肉量が多く、大腿部(ふともも)と下腿(ふくらはぎ)が太くなっている
・メディシンボールバックスローの結果と、実際に投げる球の速さとの間に強い関係性がある
・野球選手は身長が高くなるほど、球速が速くなっている
・速球が速い投手のほうが踏み出した足の膝の角度が大きい
・踏み出した足が接地してからボールリリースの瞬間まで、踏み出した足は動かず固定されている
・球速が速い投手の踏み出した足は、地面に接地した時の股関節の開き(外転角度)が0度
・効率的な運動に影響しているのが、下半身の踏み込み動作によって生まれた前進する並進運動を、回転運動につなげることになる
・ホームベース方向に並進運動していた身体は、踏み出した足によって止められることになる。すると左骨盤に止める力が生じ、この左骨盤を支点として反対側の右肩→右手が加速していく
・右投げ投手で考えると、回転運動がしっかりとできているということは、右骨盤もしっかりと回転してホームベース方向に向く。そのため、軸足の地面の擦り方はホームベース方向に向かう
・揚力は、進行方向に対して垂直方向に浮き上がることを意味しており、投げたボールの揚力が大きければ大きいほど浮き上がる力が生じて、ボールの軌道はなかなか落ちないことになる
・プロ野球選手はただ速いだけではなく、このボールの回転数が優れている、つまり伸びのあるボールを投げていることになる
・斜め回転よりも縦回転に近づけたほうが、ボールに揚力が与えられる
・コントロールに影響する要素は数多くある。その中でも、もっとも重要と思われるのがボールのリリースポイント
・リリースポイントが安定している、つまりボールリリースの再現性の良し悪しがコントロールに影響するひとつの要素だと考えられる
・手・肘のみで行うダーツ動作から始まり、段階的に使用する身体部位を増やし、最終的には全身での実際の投球動作まで行う、分習法を用いたドリル
・中学生および小学生において、90%以上が紙鉄砲を用いた投球ドリルによって、実際のボールが投げやすくなったと回答した
・投球ドリル実施前に比べて、実施後のほうが肘の位置が高くなっている。つまり、選手が主観的に感じる「テイクバックをしやすい」や「肘が上がりやすい」という意見は、客観的にも示されていることになる
・投球ドリル実施前より実施後のリリースポイントのほうが前になっているのに加え、肘の突き出し投げが改善されていることがわかる。つまり、選手が主観的に感じていた「ボールのリリースがしやすい」ということが、効果としてその動作に表れていた
第3章 走塁と守備を科学する
・盗塁スタート時のステップの仕方は、大きく分けてジャブ・ステップとクロスオーバー・ステップのふたつがある
・このステップがもっとも速いという結論を導き出すことはできなかった
・測定者の出す合図から体が反応するまでの時間と、スタートダッシュ2mのタイムとの間に特徴的な関係性は見られていない。つまり、スタートダッシュの良し悪しに、反応時間はあまり影響をおよぼしていないということ
・スタートダッシュを速くするのに必要な要素はいかに地面を強く押すか(蹴るか)
・地面を押すことができる範囲での前傾姿勢が重要となり、この時の理想的な前傾角度はさまざまな研究結果から40〜45度という数値が導き出されている。頭から足までの姿勢を一直線にするということは、力を分散(ロス)することなく、地面に力を加えるために必要なこと
・体の動きを科学的に分析していくと、地面を強く押すには、スタートの一瞬に股関節・膝関節・足関節の3つをうまく連動させることが必要なのがわかっている
・3つの関節をうまく連動させて地面を押すことを「3つ=トリプル」「伸ばす=エクステンション」という言葉を合わせて「トリプルエクステンション」という
・年代に関わらず、50m走をより速く走るためには、両足連続立ち3段跳びをより遠くに跳べるようにすることが重要
・立ち幅跳びと5m走との間にはやや関係性がある
・まず打球に対する予測となる反応局面、続いて打球に向かって素早く移動する移動局面、そして打球に近づいたらボールを捕球して次の動作をしやすくするための減速局面、捕球してから送球方向に向かって体を方向転換する切り返し局面、最後に送球となる
・反応時間と素早い動きを評価することで、その選手の長所と短所が見えてくる
第4章 ウォーミングアップと障害予防を科学する
・ウォーミングアップとは、一般的ウォーミングアップと専門的ウォーミングアップのふたつに分けられるのですが、主たる目的が異なる
・筋温が高くなるとハイパワーパフォーマンスも高くなっている。しかし、ある一定の温度を越えると逆にハイパワーパフォーマンスは低下している
・筋温が何度以上になると、パフォーマンスは低下してしまうのか?これはさまざまな研究により、39〜40℃だということがわかっている
・筋温が高いほうがハイパワーおよび神経系パフォーマンスはよくなることになり、3℃上昇させた場合(本実験時の安静筋温は約35.5℃なので約38.5℃まで上昇)がもっともパフォーマンスが高くなることがわかった
・自分はどのくらいの時間、体を動かせば筋温が3℃上昇するのかを普段の練習時などに計っておくといい
・今回の実験では筋温が36℃になるには約3分30秒、37℃になるには約7分、38℃になるには約16分かかっていた
・1℃および2℃上昇のバラつきは約1分、3℃上昇については約5分もバラつきがある
・ここで考慮しておかなければならないのが季節(ちなみに、今回の実験は秋に行い、気温は約20℃だった)
・筋温はただ高めるだけでも運動パフォーマンスは上がるが、やはりウォーミングアップで体を動かしながら能動的に筋温を高めて、その後競技関連動作に移行していくほうがより効果的であると考えられる
・最大パワー、敏捷性ともに、パフォーマンスを高めるには、寒冷環境下であれば30分、暑熱環境下であれば20分以内のウォーミングアップが適しているということがわかった
・手抜きをせずに、実際の練習や試合と同等の強度でウォーミングアップを実施する。このような実戦を意識したウォーミングアップのことを「スピードリハーサル」といい、近年注目されているやり方でもある
・チームアップでは練習中の最大ランニングスピードに対して79%のスピードとなっており、練習中に比べて21%不足しています。一方、個人アップになると、最大ランニングスピードに対して61%のスピードであり、練習中に比べて39%も不足している結果となっている
・ケガをしてしまった日のウォーミングアップ時のランニングスピードは、練習中の最大スピードに比べて35%も低かったことがわかった
・全力と手抜きのウォーミングアップと、その後の運動パフォーマンスを分析した結果、ランニングスピードや敏捷性において全力ウォーミングアップをしたほうが体は動かしやすい(とくに前半において)という結果も出ている
・代表的なウォーミングアップとして考えられるのは、筋肉の温度を高めること、柔軟性を高めること、心肺機能の循環を高めることではないか
・脳のウォーミングアップとは、ずばり適度な覚醒状態を保つことである
・セロトニンを適度に分泌させることが、興奮しすぎでもリラックスしすぎでもない、適度な覚醒状態を作るキーワードになる
・セロトニンの分泌を促す方法はいくつかありますが、ウォーミングアップとしておすすめなのは適度な日光浴とリズム運動である
・研究結果から、ウォーミングアップ中に行うスタティックストレッチングは、1部位に対して30秒以下で行うことが、運動パフォーマンスを向上させる上では望ましいといえる
・ストレッチングの一次効果とは、筋が伸ばされることによって生じる体反応のことです。この一次効果は、血流促進、筋の緊張緩和、神経・筋の調整がよくなることなどが挙げられる
・二次効果が、障害予防、柔軟性向上、ウォーミングアップの補助、クーリングダウン(疲労回復)となる
・筋温を安静時よりも3℃上昇させてからストレッチングをした方が柔軟性は改善しやすいということがわかる
・筋温を2℃上昇させるためには約10分、3℃上昇させるためには約15分かかっている
・水中でのストレッチング前より後の方が股関節の柔軟性改善があり、主観的にも改善された感覚が翌日まで維持されている結果になった
・20秒間のストレッチングを毎日、それを4週間続けることで、明らかに足首の角度の改善が見られた
・得られた柔軟性は、週1回ぐらいのストレッチングでは維持されず、柔軟性を維持するためには週3回はストレッチングを実施することが望ましいということがわかった
・トレーニングで得られたものが元の状態に戻ることを「ディトレーニング」という
第5章 疲労回復を科学する
・身体的疲労は5つに分けられる
1.エネルギーの枯渇
→炭水化物の補給
2.筋肉(抹消)への疲労物質の蓄積
→血液循環の促進
3.筋ダメージや筋肉痛
→ダメージの抑制(冷却)
4.生体内の恒常性のアンバランス
→体温調節、水分補給
5.脳(中枢)の疲労
→糖質摂取、睡眠
・通常は、起床時に体温が徐々に上がってくることで、目覚めのいい朝を迎えることができる
・研究結果から、夏場の睡眠環境は、タイマー機能を用いて入眠時にエアコンを使用し、後半にはエアコンを止めて起床時に体温が上がってくるようにすることが、体のためにはもっともいい睡眠環境といえる
・エアコン環境ほどではないにせよ、冷却枕には快眠を促す一定の作用はある
・アイスバスによる生体反応
体温・筋温↓
→エネルギー消費抑制、マインドセット
神経伝達↓
→筋肉の張り緩和、痛みの抑制
代謝↓
→痛みや二次的障害が広がるのを抑制
血管収縮↑
→腫脹やむくみを抑制
・アイスバスの具体的な活用方法
1.夕方の試合で夜に眠れない場合
2.練習後に食事がスムースに摂取できない場合
3.心理的ストレスがある場合
4.ハードな練習をして全身に痛みや張りがある場合
・冷やしすぎてしまうと、神経系に対してマイナスな作用をおよぼすことがあるという研究や、過剰な冷却が成長ホルモン分泌を妨げてしまうという研究もあり、近年アイシングの是非が問われている
・昼寝は「パワーナップ(powernap)」と呼ばれており、スポーツ選手にとっても有用であることが近年わかってきている
・スポーツ選手を対象とした昼寝の研究において、昼寝を30分ほどした条件のほうが、運動パフォーマンスの中でもとくに認知判断能力が良好な結果を示している
第6章 筋力トレーニングを科学する
・トレーニングの角度特性とは、結論からいえば、動かした角度(曲げた角度)での筋力はよく向上するが、動かしていない角度(曲げていない角度)での筋力はあまり向上しないということである
・トレーニングの速度特性とは、結論からいえば、トレーニング速度に応じた速度での筋力が向上するということである
・最大筋力を野球動作に生かすとするならば、瞬時発揮筋力にターゲットを絞ったトレーニングを実践するようにする
第7章 コンディショニングを科学する
・ステップテーパリングは熟練者が行うとプラスになるものの、テーパリング経験の少ない人の場合には、徐々に減らす漸進的テーパリングの方が適しているようである
・強度は落とさないけれど、1セッションあたりの時間や回数を減らすということになる
・今回の検証結果からすると、今まで感覚的によいとされていた「起床からしばらく時間が経過していたほうが神経系に関する運動パフォーマンスは高くなる」ということが科学的に裏づけされた
・運動パフォーマンス(敏捷性や跳躍力)には、着圧ウエアが有効であるとは今回の調査からでは断定できませんでした。なので、着圧ウエアはあくまでむくみやだるさに対して有効であり、長時間移動後から始まるウォーミングアップを円滑に行う上でもサポートになると考えられる
終章 折れない心、根性とは?
・何かうまくいかなかった場合に、その原因について自ら考えて、実行してみるといった志向は、自己成長感を得るために必要な考え方である可能性が高い
・トレーナーもまた、治す人というよりも、先生や指導者と同じように選手やクライアントを目的地まで導くという役割を担う立場だといえる
以上