日本全国方言は様々で、それについての研究も盛んに行われています。
しかし、その一方でものの言い方やしゃべり方についての研究はサッパリとの事。
本書は、このサッパリ分野を研究している2名の研究者が一般向けに執筆した、研究成果解説本です。
構成は全11章からなり、最初の7章で以下7つの観点から日本各地
...続きを読むの話し方について分析し、その後の8章から終章までで総括や各地の話し方の違いが生じた原因の推察等を行っています。
・発言性
あることを口に出して言う、言葉で何かを伝えると言う発想法
・定型性
場面に応じて、一定の決まった言い方をすると言う発想法
・分析性
場面を細かく分割し、それぞれ専用の形式を用意すると言う発想法
・加工性
直接的な言い方を避け、手を加えた間接的な表現を使うと言う発想法
・客観性
主観的に話さず、感情を抑制して客観的に話すと言う発想法
・配慮性
相手への気遣い、つまり、配慮を言葉によって表現すると言う発想法
・演出性
話の進行に気を配り、会話を演出しようと言う発想法
本書によれば、上記7項目について、九州を除く西日本は他地域よりも発達しており、また客観性については特に近畿地方において著しく発達しているとの事です。
そしてこの違いの原因として、歴史的に近畿地方が日本の人口密集地帯かつ商業の中心地でもある事を挙げており、これらによって近畿地方を始めとする西日本では他者への気遣いが発達した言い方が育まれた他、古代より他地域に比べ、民主的な社会構造を築いてきた可能性もあるとしています。
また、単に地域のみに着目するだけでなく、都市化がしゃべり方へ影響を与える可能性にも触れており、この点を今後の研究課題としていました。
尚、都市化の影響についてですが、東日本に位置する東京は東北を始めとする他の東日本地域と比べると上記7項目が発達している一方、近畿地方と比べるとまだまだで、社会の変化には時間がかかることを考えればこの違いはすぐには変わらないであろうとの事です。
西日本、特に近畿地方で育った方が関東に行った時、現地ではお店の人などに対して「ありがとう」と言わないのだと、驚いてしまったという話は有名です。
本書はこのありがとうを始めとする様々な地域間の違いについて、理解が深まる内容となっています。
実際、私は本書によって、インターネットで時折見かける関西と関東の違いについて取り上げたニュース記事(この手の記事は大抵似たり寄ったりな内容で正直食傷気味なのですが)について、これまでになかった視点で考える事ができる様になりました。
結構視野が広まると思いますので、一読をおすすめいたします。