2005年5月25日。新潟県にある福祉施設で「最後の瞽女(ごぜ)」
と言われた小林ハルが亡くなった。
録音であったが、彼女の唄を聴いたことがある。決して美声では
ない。だが、低く重く響く声は足元を揺さぶるような迫力があった。
瞽女(ごぜ)。視覚に障害を持つ女性の旅芸人のことである。
本書は瞽女の
...続きを読む誕生から晴眼者へと受け継がれた瞽女唄の
変遷を追っている。
小林ハルさんの評伝を読んでいるので瞽女さんに関しては
多少の知識はあったが、その歴史が中世から始まっていた
とは知らなかった。
しかも「瞽女」という言葉は、「盲御前」という呼び方が変化した
ものだったのとは。ちなみに「御前」は女性の尊称である。
大奥にはお抱えの瞽女さんがいたり、近世には各種の規制に
より旅芸人の行動範囲が狭まったりと何かと困難が伴った。
そして、明治維新以降はほぼ日本全国にいた瞽女さんは
廃業を余儀なくされ、昭和の時代には甲信越地方に僅か
の人数が残るだけになった。
政府による規制だけではない。蓄音機やラジオ・テレビの
出現が、瞽女さんたちの生業を難しくさせた。
季節ごとに各村落を巡って、門付けを行う瞽女さんは、娯楽
の少ない時代にはその訪問が待ち望まれたのだろうね。
本書には瞽女唄の歌詞や楽譜も掲載されている。残念ながら
私は楽譜が読めないのだが。
口承伝承の文化であった瞽女唄。今では視覚障害のない
女性が引き継いでいるようだが、それは瞽女唄であって
瞽女唄でないような気がする。
尚、小林ハルさんについては『鋼の女』(下重暁子 集英社
文庫)がおすすめ。壮絶で、過酷な人生を生きた人である。