≪2022年12月号≫月刊 書店員すず木

≪2022年12月号≫月刊 書店員すず木
この道10年以上のプロ書店員・すず木です!
前月に配信された新作マンガで実際に読んで面白かったものの中から<少年・青年マンガ><少女・女性マンガ>それぞれ1作品を勝手に「今月の書店員すず木賞」としてご紹介!

※セーフサーチを中またはOFFにすると、すべての作品が表示されます。

新規会員限定半額クーポンプレゼント

今月の書店員すず木賞

少年・青年マンガ

      • 僕らには僕らの言葉がある

        僕らには僕らの言葉がある

        “ろう”のピッチャー・相澤真白と“聴”のキャッチャー・野中宏晃。音のない世界と音のある世界を超えてお互いに近づいてゆく男子高校生バッテリーの青春ストーリー! 高校の入学式で、初の「インテグレーション生」として入学し、壇上から手話で挨拶する真白。野中は、野球だけが目当ての自分には関係ないと聞き流...

        「聴こえないピッチャー」と「聴こえるキャッチャー」は、「バッテリー」になれるのか?様々な可能性や価値に気付かされる物語。

        中学生の頃から硬式野球をしていた野中宏晃(のなか ひろあき)は、高校でも野球をすることしか考えていませんでした。
        そんな彼が入学式で出会ったのが、インテグレーション生(障がいのある生徒が各種特別支援学校ではなく、通常教育の学校で一般の生徒と共に学ぶこと。)として普通学校に進学した、生まれつき耳が聞こえない“ろう者”の相澤真白(あいざわ ましろ)。
        耳が聞こえない相澤とはどうせ関わることなんてないだろうと思っていた野中でしたが、なんと相澤は硬式野球をするために入学してきたのです。
        相澤と組むのを面倒くさがった野球部のチームメイトは、その役を野中に押し付けます。
        最初は嫌々だった野中でしたが、相澤の投げるフォームのしなやかさやボールの筋の良さに考えを改めるのです。
        “ろう者”のピッチャーと“聴者”のキャッチャーのバッテリーが誕生したのでした。
        この物語は“ろう”であることを様々な観点から描いており、乗り越える苦難としてではなく受け入れる日常として描いているところが印象的でした。
        もうひとつ印象的だったのが、手話もひとつの言語であり日本語や英語を習得し会話するのと同じ。言語が違うだけということです。

        それを表しているのが、50音のひらがなを指で表す指文字でコミュニケーションが取れることを知り、元来野球のサインを憶えるのが得意だった野中は相澤の投げたボールに対して指文字で「ナイスボール」と返すシーン。
        普通学校での些細な躓きに傷ついていた相澤が初めて人とコミュニケーションが取れたと実感した瞬間だったのでしょう、その瞬間の彼の表情は読んでいるこちらも胸が震えます。

        自身も子供の頃に周りから煙たがれていた野中は、“ろう”であることで周りから距離を取られがちな相澤にまっすぐ向き合っていきます。
        “ろう”であることを特別視するのではなく、ただ普通に“ろう”であることを当たり前として受け入れる野中。
        彼の姿勢は、様々な個性や価値観がある現代社会で生きる我々には学ぶべきものが多いのではないでしょうか。
        また、そんな野中と一緒に野球をするうちに相澤自身も変化してゆくのです。

        今作は巻数のクレジットがなかったので、1巻完結の作品なのでしょうか。
        まだまだ彼らのこの先を読みたい!!と思ったのは私だけではないはずです。

        “ろう”と野球を通してコミュニケーションを取るということについて考えるキッカケになる作品です。

少女・女性マンガ

      • 永年雇用は可能でしょうか(1)

        永年雇用は可能でしょうか(1)

        「小説家になろう」発の大人気作品、満を持してコミカライズ! 主のセクハラが原因で勤めていた屋敷を理不尽に追放されたメイドのルシル。 遠く離れた街で見つけた再就職先は、森の中で一人暮らす無口で無愛想な魔法使い・フィルスの屋敷だった! 謎多きフィリスの好みを探っていく生活は、悪くないどころかかなり...

        無口で不愛想な魔法使いのおじさまと不遇なメイドの優しい気持ちになれる異世界同居ファンタジー!!

        主のセクハラが原因で務めていた屋敷を理不尽に追放されたメイドのルシルが再就職先として見つけたのは遠く離れた街の魔法使いの家。
        新しい雇用主であるフィリスは、口数が少なく不愛想ながらもその見た目とは違い悪い人ではなさそうで…。
        フィリスからの要望は「余計なことをしないように」ということだけ。
        そんな彼に対し「野生動物と距離を測っているかのよう」と妙なポジティブシンキングを発動するルシルに思わずくすっとしてしまいます。

        原作は「小説家になろう」の人気小説。
        虐げられ令嬢系作品が好きな方におすすめの作品です。
        魔法使いがいる世界の物語ですが、ルシルが作中で言っていたように魔法は身近なものではなさそう。
        そのため魔法バトルなどの派手さはなく、どちらかと言うと庭で植物を育てたり丁寧な家仕事が描かれる物語です。

        そんな素朴な物語ではありますが、この物語の醍醐味はフィリスとルシルの関係性がゆっくりと変化していく様と、フィリスのイケオジっぷりです!!

        フィリスの私生活は謎に満ちており、住み込みの家政婦として雇ったルシルに対し「余計なことをしない」と伝えるくらい。ルシルはそんな彼に対して不平不満を抱かず、自分を押し付けることなく必要なことを適度な距離をとって行うのです。彼女の有能さは見ていて爽快です。
        また、最初は偏屈感を感じさせるフィリスですが、ルシルとの会話に頷きを返したりメイドであるルシルに飲み物を作ってくれたり、不愛想ながらもふと見せる表情や優しさにハートをわしづかみにされました。


        今まで不遇だったルシルには幸せになって欲しいですが、前の雇い主であるニゼアの追手も気になるところ。
        彼女が幸せになるために、フィリスがどのように動くのか…!?
        先が気になります!

こちらもオススメ!!

惜しくも今月の書店員すず木賞からは漏れたものの、オススメの作品をご紹介!!

書店員すず木

2005年より電子書籍サイトの仕事に携わる、この道10年以上のプロ書店員。
年間に読むマンガの冊数は2000冊以上。
「面白いマンガを多くの人に読んで欲しい」をモットーに、オススメのマンガをご紹介します。

最近の書店員すず木:冨樫義博展に行ってきました!!原稿の美しさに感動しました…。やはり手描き原稿って迫力が凄いですね。
月刊は今年も最後の更新となりました。
ですが、今年もやります!次週「年刊書店員すず木」を発表!!お楽しみに!!

新規会員限定半額クーポンプレゼント