墨野恒一の検索結果
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彼はいつも、一着の古びた袍を身にまとっていた。 それは、とうに亡くなった一人の女が、生前、その手で縫い上げたものだという。 遠い昔―― 女は瀕死の彼を背負い、血に濡れた山道を、一歩、また一歩と進んでいた。 その身から流れ出る血は、すでに尽きようとしていた。 顔は紙のように白く、息も絶え絶えであった。 それでも彼女は、不思議なほど穏やかな顔で、彼にこう告げた。 「少し……疲れましたね」 それが、彼女の最期の言葉となった。 以来、彼はその袍を決して手放さなかった。 破れれば繕い、 繕えば、また破れた。 幾度となく針を通し、継ぎ布を重ね、 そうして彼は、百年もの歳月、その袍をまとい続けた。 彼の傍らには、いつも一匹の猫がいた。 だが、その獣を果たして猫と呼んでよいものか、誰にもわからない。 姿かたちは、確かに猫に見える。 されど―― この世に、三千年もの時を生きる「猫」など、あろうはずもない。 彼は、多くの人を殺してきた。 その数を知る者は、もはやどこにもいない。 ただ袖をひと振りするだけで、 人の頭は、石畳に叩きつけられた西瓜のごとく、たちまち砕け散ったという。 死者は、あまりにも多かった。 その名を聞けば、人々は戸を閉ざし、 泣く子さえ、たちまち声を潜めた。 彼を恐れる者たちは、ひそかにこう呼んだ。 ――悪鬼、と。 だが、彼が求めていたものは、不老長生ではなかった。 仙籍に名を連ねることでも、 天地を意のままにする神通力でもない。 彼が願ったのは、ただ一つ。 ただ一度きりの成仙の機縁と引き換えに、 あの日、血を流し尽くして死んだ女を―― 再び、この人の世へ呼び戻すことだった。