血染の袍(1)
  • 完結

血染の袍(1)

小説・文芸
858円 (税込)

4pt

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彼はいつも、一着の古びた袍を身にまとっていた。

それは、とうに亡くなった一人の女が、生前、その手で縫い上げたものだという。

遠い昔――

女は瀕死の彼を背負い、血に濡れた山道を、一歩、また一歩と進んでいた。

その身から流れ出る血は、すでに尽きようとしていた。
顔は紙のように白く、息も絶え絶えであった。

それでも彼女は、不思議なほど穏やかな顔で、彼にこう告げた。

「少し……疲れましたね」

それが、彼女の最期の言葉となった。

以来、彼はその袍を決して手放さなかった。

破れれば繕い、
繕えば、また破れた。

幾度となく針を通し、継ぎ布を重ね、
そうして彼は、百年もの歳月、その袍をまとい続けた。

彼の傍らには、いつも一匹の猫がいた。

だが、その獣を果たして猫と呼んでよいものか、誰にもわからない。

姿かたちは、確かに猫に見える。

されど――

この世に、三千年もの時を生きる「猫」など、あろうはずもない。

彼は、多くの人を殺してきた。

その数を知る者は、もはやどこにもいない。

ただ袖をひと振りするだけで、
人の頭は、石畳に叩きつけられた西瓜のごとく、たちまち砕け散ったという。

死者は、あまりにも多かった。

その名を聞けば、人々は戸を閉ざし、
泣く子さえ、たちまち声を潜めた。

彼を恐れる者たちは、ひそかにこう呼んだ。

――悪鬼、と。

だが、彼が求めていたものは、不老長生ではなかった。

仙籍に名を連ねることでも、
天地を意のままにする神通力でもない。

彼が願ったのは、ただ一つ。

ただ一度きりの成仙の機縁と引き換えに、

あの日、血を流し尽くして死んだ女を――

再び、この人の世へ呼び戻すことだった。

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