あらすじ
「あたしは、突然この世にあらわれた。そこは病院だった」。限りなく人間に近いが、性的に未分化で染色体が不安定な某。名前も記憶もお金もないため、医師の協力のもと、絵に親しむ女子高生、性欲旺盛な男子高生、生真面目な教職員と変化し、演じ分けていく。自信を得た某は病院を脱走、そして仲間に出会う――。愛と未来をめぐる破格の長編小説。
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Posted by ブクログ
「今の自分に納得いかなくて全く違う誰かになれたらいいのに……」「朝起きたら佐々木希になってますように……」「Twitterでの自分はキラキラOLで彼氏とも上手くいってて……」「転職先ではパリピとして振舞おう……」そんなふうに普段から思いながら生活をしているわたしにとって、とてもぴったりな作品でした。
そして、本当に愛する人ができた時に他の誰でもない自分でありたいと願ったり、その人のために生きたいとか命を投げ出したりとか、本当の愛について深く考えました。
Posted by ブクログ
某って響きいいな。
こんな簡単に色んな人に変われたらなーって誰しも思うよなぁ。女にも男にも日本人以外にもなってみたい。しかも元の人間の記憶がありながら。
大切な人が出来たら変わらないことを望むかー。確かに。考えたことなかった。今のその人自体が好きなんだものね。ありのままが1番ってわけだ。
Posted by ブクログ
淡々とぼんやり「自分がわからない」まま進んでいくけれど、「わたしは私を選ぶ」となる終盤からは文章もしっかりしてきて…なんだか凄いものを読んだ、という気持ちです。
人間に似ているけれど人間ではない生命体「某」、何者にもなれるし成長する事もないから死ぬこともない。誕生なのか発生なのかもわからない(みのり以外)。変化する前とした後では、前の時を覚えていたり薄っすらとだったり。分離することはある…?つかめるようでつかめない。。
とりあえずあわあわと生きていきながら経験を積み重ねていきつつ、片山冬樹のときの決断が、主人公にとっての始まりと終わりだったんだろうな。
自分とは?
愛とは?
成長しながら生きていくとは?
死ぬとは?
SFだけれど哲学。
わたしが…ことさら訴えたりはしないけど「わたしはこんな女」を積み重ねてきた年月とかのおかげで薄っすら決めていかれるけれど、登場人物たちは「わたしはこんな女・こんな男」を何もないところからひとつひとつ確認して生きていくのか…どこを歩いてもいい、膨大な空白が目の前に広がっているんだな。
なんという不安と不穏。わからないから怯えはできない。
重たいテーマを内包して淡々と進んでいくからさらさら読める、でも読み終えたら心に湖が出来てる。
川上弘美さんのSF、しみじみ好きだなぁ
Posted by ブクログ
人間に近い何かの目線で登場人物をみれるのが面白かった。最初は淡々と進んでいき感情の変化もそこまでないが、後半になるにつれ主人公の心の変化が大きく、豊かになっていくのが感じられて良かった。
何者でもない時は誰にでもなれるしどこにでも行けるが、愛するものなど執着が産まれたらそこにつながれてしまうというのは人間においても同じように感じた。人間でないものの話だけども、人間味を感じる話だった。
Posted by ブクログ
読む前の印象は、もっと怖くて仄暗いお話なのかな~‥と思いましたが、そんな事はなくてちょっぴり不思議なお話でした。
一見、突拍子もない摩訶不思議な話しに思えるけど、この物語を前世の記憶を少しだけ持っている人達の話と置き換えて読んでみると、非常にしっくりくる‥
何度も何度も変化(輪廻転生)を繰り返しながら
生とは?死とは?
問いかけながら
変わっていく事、変わらない事。
色んな人格になり、色んな人生を経験する事で、自身も知らない間に少しずつ成長していく‥
「愛するって何?」
「相手の為に生きたいって思える事だよ」
死を恐れなかったひかりが、愛する事を知って変化する事を恐れた事も、変化出来なくなった事も、魂の意志、成長を現しているように思えた。
最後の人格が「ひかり」という希望の溢れる名前なのも良かったな‥。
あと、個人的には何度か
途中禅問答のようなやりとりも出てきて、あ〜こういうの好き♡
と思いながら夢中で読み耽りました。
色んな解釈が出来る一冊
私好みのお話で面白かったです。
Posted by ブクログ
【2023年114冊目】
大体あらすじを頭に入れずに読み出しちゃうことがほとんどなんですけど、いや〜不思議な小説でした。川上弘美さん、SFもお書きになるんですなぁと思ったけど、「蛇を踏む」もそうだったかもしれない。
主人公は突然この世に誕生した、というか存在が始まった、生命体。途中から、この生命体には個体名がつくんですけど、まあそれは置いといて。女子高生、男子高生、男性事務員とどんどんと変化していく主人公。変化する前の記憶は持っているのに、性質とかはがらりと変わるというのが面白いなと思いました。似通った性質を引き継ぐこともあれば、全く違った性質なこともあり。
確固たる己がない生命体の話だからこそ、物語全体を通してなんだか、ふわふわと包まれるような雰囲気があったのですが、かと言って話に芯がないわけではないのが、さすがでした。
マリあたりまでが生命体としては好きだったかな。
しかし、なんでこの生命体に対して殺意をもつ人間がいるのか、そこだけは説明がなかったのが残念でした。
Posted by ブクログ
不思議な話だった。不思議な世界に飲み込まれていってすらすらと読めたがアルファとシグマという仲間が出てきた途端つまらなくなった。何者でもない者は1人(最低2人)でいいと思う。
Posted by ブクログ
忽然と病院に現れた女性。名前も性別も年もわからず記憶も持たない彼女は、「誰でもない者」(「医学界の都市伝説みたいなもの」と思われていた「人間に限りなく近い生物」)だった。主治医の蔵医師の指示でアイデンティティーを確立すべく、治療を開始し、まず丹羽ハルカという女子高生になる。治療の過程で次々と別人(性別も変わる)になるが、それにより人格も変化する。さまざまな人間としての経験を重ねながら、仲間に出会い、感情を獲得していく。
それぞれの話はそういうものとして読めば、とても面白い。これはSFでもミステリでもないので、それでいいのだ。
なんでそんな存在なのかは自分にもわからないし仲間たちも知らない。家族もなく、どこか欠落したものを感じながら「人間」のように生きる彼らの自由さには不穏さがつきまとう。人は一人で生きるしかないからこそ、他人を求めるのかもしれない。