あらすじ
米国ワシントンDCのスミソニアン博物館群の中に、1923年、米国初の国立美術館として開館したフリーア美術館がある。収蔵作品の目玉は、約2000点の日本美術では、葛飾北斎をはじめとする肉筆浮世絵コレクションと俵屋宗達、尾形光琳を中心とした琳派コレクション。しかし所蔵品は寄贈者の遺言により「アメリカ国民にアジアの文化を紹介して正しい理解を促す」ことを目的に広く公衆に開放するが、外部への貸し出しを禁じ、現在も門外不出。日本人には知る人ぞ知る美術館である。
海外に流出した日本美術の収蔵館として広く知られるのはボストン美術館だろう。同時代のたったひとりの寄贈者のコレクションであるところがフリーア美術館の特徴だ。本書はフリーア美術館協力、コレクションの寄贈者であるチャールズ・ラング・フリーアの初の日本語による評伝である。
南北戦争後の「金ピカ時代」、空前の鉄道建設ブームに乗り巨万の富を築き、世界漫遊旅行に出て日本を訪れ、その後、日本美術の蒐集に没頭する。蒐集期間は日清・日露戦争から第一次世界大戦の間という、日本が列強の仲間入りをした頃。もちろん美を集めるには金が要る。本書の読みどころのひとつは残された記録によって、どれほどの金がどのように動いたかが生々しく記されているところである。明治に日本美術を救ったといわれるフェノロサが商売人として才覚を発揮しているところも興味深い。
益田孝、原三溪ら日本人の数寄者との交流も目を引く。彼らの蒐集品は没後散逸したものも多い。貴重な日本美術コレクションが海の向こうでそのまま1世紀生き残った記録としても、読み応えのある書だ。
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
フリーアの美術,芸術に抱く真摯な気持ち,愛と言ってもいい.それが,日本美術や世界的な芸術作品を今に伝え守ることになった.ただの金持ちではない,頭が下がる.
彼の人生をたどり,特に美術品の取り引きを詳しく調べ(本当に細かく調べていて驚かされる)参考までに現在の日本円に換算までしてくれてわかりやすかった.口絵,扉絵など挿画もあってそれも良かった.
本阿弥光悦はフリーアの慧眼で再注目されたなど.贋作,鑑定,知らざれる日本美術史という側面もあるのではないだろうか.面白かった
Posted by ブクログ
<目次>
序章 謎の人物チャールズ・ラング・フリーア
第1章 美に目覚めた実業家
第2章 世界漫遊家が日本を行く
第3章 日本美術のとりこになる
第4章 ビングとフェノロサ
第5章 コレクションの寄贈
第6章 原富太郎との友情
第7章 益田孝との確執
第8章 中近東からエジプト、中国へ
第9章 フリーアの晩年
終章 死と再生
<内容>
アメリカに日本美術を中心とするアジア美術コレクションを展示するフリーア美術館(スミソニアンにコレクションを寄贈して作った)を建てた人物の伝記。
鉄道を中心に巨万の富を築いたが、結婚もせずその富を東洋美術、主に日本美術のコレクションに充てた。審美眼に優れ、偽物を見抜き、値段も古美術商の言い値では決して買わない、優れたコレクターだ。しかも美術ジャンルに著名な友人が多い。例えばフェノロサ、原富太郎、益田孝…。資料を堅実に紐解き、誠実にまとめられた、面白い伝記だった。