あらすじ
満足? 後悔? 愉悦? 絶望?
人生の黄昏を迎えるとき、人は自らの来し方をどう捉えるでしょうか。
長く別居して年一回の対面を重ねる夫婦、
定年間近の独身男の婚活、
還暦過ぎの女友達二人、
かつて交際していたアイドル歌手同士の再会……。
乙川さんの新作は、誰の身にも起こり得る人生模様を端正な文章で紡ぎます。
時代小説から現代に小説の舞台を移してからも大佛次郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞、島清恋愛文学賞など数々の評価を得ている筆者による9つの物語。
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また、読み終わりたくない時間があっという間に過ぎてしまう。なんでなのかな。話自体は九篇あるうち、もの珍しいのはそれほど多くないのだけれど。しかも、それぞれの登場人物から見れば悪いばかりではない終わり方なんだろうけど、話としてのハッピーエンドではない話も多いしな。でも逆に、これからのことを考える話ばかりだから、それぞれの読後感は悪くなくて、眠いはずの帰路の電車の40分余り、全く寝なかった。
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語り口の巧みさは、この人の現代小説の持ち味。
ほろ苦さ。その味付けから外れない。
そこは魅力ではあるが、無い物ねだりしたいところでもある。
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初出 2019〜21年「オール讀物」
タイトルどおりの9つの短編集。
昔からこの人の文体が好きだ。
こなれて静かですんなり入ってくるのに、表情を持つ言葉が記憶に残る。
9人の初老か老年の主人公たちも、またそのような感じがする。
フランスに行って宝飾デザイナーとして成功した妻に、帰国を懇願するが拒否される定年間近の本のデザイナー。
ヘッドハンティングに関わった女性ホテル支配人に、気になっている女性バーテンダーを紹介したら、引き抜かれてしまった業界紙の記者。
放埒な生き方をして負債を残して死んだ義兄の葬儀で、若いときに紹介された義兄の会社の女性事務員に再会する工場を定年退職した男。
親の残した豪邸に一人で住みに続ける浮世離れした元令嬢を、定期的に見舞う老後を生き生きと暮らす女。
若い頃密かな交際をマスコミに騒がれて消滅した元歌手で女優に墓地で再会して、ライブバーで一緒に歌うのを「まるで生きていることのように思」う(?)ジャズバー専属歌手。
夫婦で市役所を定年退職後、ゆとりはあるが味気ない生活に高校の同級生との交流という新しい楽しみができた途端、人間ドックの再検査中に脳梗塞で倒れた男。
婚活で知り合った未亡人が、いい人だが物足りなくなると思い別れるつもりでホテルに誘った(が、深みにはまるらしい)文芸出版の編集者。
商社マンの夫を出張先の外国で亡くして働きながら娘を育て、付き合っている男に求婚され、看護師の娘が男と生きていこうとしているらしいことで決心する女。
長く海外勤務して留守を続け、自分を家に縛るだけの商社マンの夫に離婚を迫り、家を出る妻。
どれも感動の熱いストーリーではないが、じんわりと染みこんでくる。
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外国での仕事・暮らしが絡んだ中年男女の恋愛、離婚、再婚など、9話が収録。著者、乙川優三郎さんは房総が一番のようですがw。「ナインストーリーズ」、2021.6発行。第2話「1/10ほどの真実」、第3話「闘いは始まっている」、第8話「あなたの香りのするわたし」がお気に入りです。
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ホテルの上階は音も絶えて、そろそろ若い人たちが睦み合う時間であったが、亜希子はもう来ることのない海を眺めるために部屋の明かりを消してみた。曇天なのか月も星もなく、海原は暗く澱んでいたが、薄明かりの眼下に白い波が寄せているのが見える。すぐ近くで同じ海を見ている男を感じながら、彼女は終わったことにいくらかの寒さを覚え始めた。このあてどない地点に立つまでの長い長い軌道の虚しさを、それぞれの窓から見つめることに意味があるとしたら、そうして始まるらしい二つの自我の蘇生だろうと思った。そのことに男もなにがしかの意味を見出してほしい、と願わずにいられなかった。
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「毎日顔を合わせている夫婦が私より幸せとは限らないわ、お互いの欠点に触れて憎み合ったり、夫婦をつづけるために大事なものを犠牲にしたり、そんな十年ならひとりでいる方がましでしょう」p26
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現代小説へと舞台をギアアップした氏の短編9編。
何れも人生黄昏期を迎えた男女の来し方行く末を偲びやかな辛口であったり、乾いた文体で・・あたかも俯瞰する視点で見つめている。
あれ、乙川さんって・・直木賞だったよねと思うほど、最後の作品は芥川賞っぽく、それを読む私も・・あれ?(芥川賞系は合わないので)
同じテイストばかりでだれないと言えば嘘になるが、職種、設定の多様さは筆のの冴えを見せる。
「安全地帯」「海の~」は昨今、一番よくありそうな話・・男は自分一人では帳尻を成功へは持って行けない。
「六杯目~」はなかなかでこのラスト、さ―て丁か゚半か
筆者の生活スタイルから「都会の人生」が前面に出ているのはやむを得ないが、登場する人物・・男女ともに「知り合い」であっても「友達になりたくないか」という臭いばかり・・翻る自分も同類かと鼻白んで。。
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満足? 後悔? 愉悦? 絶望?
人生の黄昏を迎えるとき、人は自らの来し方をどう捉えるでしょうか。
長く別居して年一回の対面を重ねる夫婦、
定年間近の独身男の婚活、
還暦過ぎの女友達二人、
かつて交際していたアイドル歌手同士の再会……。
乙川さんの新作は、誰の身にも起こり得る人生模様を端正な文章で紡ぎます。
時代小説から現代に小説の舞台を移してからも大佛次郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞、島清恋愛文学賞など数々の評価を得ている筆者による9つの物語。
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短編の時は特に、各タイトルが秀逸。
しかし、どれもなかなかに辛い話。5と8話は幸福感があるか。1と7話が好き。
何時もの如く、女は強く、男は流されていく。
人と人の心のすれ違いを描いているだけなのに、なぜこんなにも格調高く感じるのか。
とは言え、似た感じのものが増えてきているのは、少しつまらない。
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晩年を迎えた男と女の来し方行く末を美しい文章で、時に甘く、時に辛辣に描く9つの短編。
若さの青さと苦さを描いたサリンジャーの短編集と同じタイトルながら、それとは対照的なのが面白い。
安定を捨てきれず、人生の後半に差し掛かってなおぐずぐずと逡巡する男に対し、あまりに強く身軽な女性たちの姿が印象的。
そんな女性を見て、恥ずかしくない自分でありたいと思う男あり、今更自分を変えられないと現状に踏みとどまる男ありとバラエティに富む9つの物語。
特に好きなのは「闘いは始まっている」と「くちづけを誘うメロディ」。前者は前に進む清々しさを感じ、後者は珍しい設定ながら、しみじみとした味わいがある。
もちろん、嫌な感じの男も女も出てくるけれど、それもまた人生。乙川さんの文章で彩られると、全てが文学的になるのが素敵。