あらすじ
一発屋以前の芸人・根尾。ものまねが縁で声のかかった声優の道を進むのか? 元相方とまだ夢を追い続けるのか? 若者たちの思いと諦めたものの思いが交錯する物語。
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Posted by ブクログ
元お笑い芸人が書いた小説。
主人公が夢を追い求めて芸人を続けるか、ある大御所声優に見出された才能を伸ばして声優になるかの葛藤を描く。
元相方や先輩との掛け合いはテンポのよい文調で、一気に読み進んでしまった。
芸人の経験があってこそなのだろう。
例えば一発屋芸人を評する一文を抜粋すると
『ジェットコースターのように急な角度で上がったものは下がるスピードが速い。厄介なのは、一度上げたものを下げることに人間が快感を覚えるということだ。ブレイクする芸能人を生み出すのも大衆なら、勢いが落ちると「飽きた」「消えた」と騒いで落下のスピードを速めるのも大衆だった。』
この研ぎ澄まされた表現は刺さった。
作中でどんな芸人にも一度はチャンスの打席が回ってくると言っているが、そこでチャンスを掴むのはほんの一握り。さらにそこから売れるのは一つまみだろう。
著者は芸人「レム色」として数年間コンビとして活動し、エンタの神様にも出演したほどであるが、正直名前すら聞いたことがなかった。
本書の面白さは終盤に伏線を回収していくストーリーよりも、著者が芸人時代に経験した辛酸や苦悩が小説に込められているところだ。
夢を追う人、諦められない人にぜひ読んでほしい一冊。
最後に回文
「臭い火事 妻と遺灰と待つ 次回作」
Posted by ブクログ
作りこまれた凝った構成で、とても面白かった。声優にお笑いの作法でダメ出しをされる場面は、芸人同士のダメ出しも苦手なので、それ以上につらい。しかし、声優がある目的があって主人公につらくしていたことが後で分かるから、痛々しくてもよかったのだ。
主人公の過去があまりにひどくて、途中でドン引きする。それを回復させてくれるのかと思って読み進めると、その印象が解消されないまま終わってしまう。100万円と土下座だけでは無理だ。そしてそんな過去がなければ気にならなかったのかもしれないのだが、主人公が誰を愛することもなく、誰かのために献身することもなく自分の夢を追いかけることしか考えていないまま終わった。しかしそんなところがむしろリアルな気もする。