あらすじ
芸術に理解をもつ金持ちの独身青年ローランドが、アメリカ・マサチューセッツ州ノーサンプトンの片田舎に住む天才芸術家の卵ロデリック・ハドソンを見いだし、イタリアで大成させようとする過程を、複雑な恋愛模様、芸術家の苦悩、アメリカとヨーロッパの確執を交えてダイナミックに描く長篇小説。英国批評界の重鎮F・R・リーヴィスから、「古典と称される多数の小説などよりも、永久に読み継がれるべき卓越した作品」と絶賛された。小説の魅力が横溢する傑作であり、ヘンリー・ジェイムズ初の長篇小説、60年ぶりの新訳決定版!
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Posted by ブクログ
☆4.5 天才と女神、そして青年
小谷野さんから。
この小説において関心事を寄せるのは、筋ではなく、人間関係である。ローランドにしろロデリックにしろミセス・ハドソンにしろ、丹念に描写されて普遍的な人間像に感じられる手腕は見事だ。私は読みながらローランドに共感し、ロデリックに嫌気が差し、同時に淵にはまった暗雲をも追体験した。
三島由紀夫は「小説内で彼女が美女だと書けば、美女といふことになる」と文章読本で書いたが、ここに出てくるクリスチーナ・ライトほど、その効果を活用せしめた登場人物もゐまい。美女にはミステリアスさがいる。それは村上春樹的なミステリアスさではなく、悲劇の悪女である。
ここには単純な善人も悪人もをらず、みな円球人物として活き活きと苦悩し、輝いてゐる。読めばきっと、数世紀前に書かれた小説とは感じられず、現世に通ずる性格や精神を見出すことであらう。
まあ会話を追へばがいかにも小説的、現実的であるといふ欠点を見いだすことができるかもしれないが、あくまで小説とはさういふものである。
最後、なぜロデリックがあの行動をしたのかも、前後を読めば推測できるやうになってゐる。
行方さんの解説は、大学生とのQA問答がすばらしい。あの行方さんでも苦労した翻訳だといふから、ところどころ日本的思考からすると違和はありつつも、最上の訳であることは間違いない。
Posted by ブクログ
1874年作。
ヘンリー・ジェイムズではあるが最初期の長編なので「そうでもないかな」と思って読んでみたら、これがかなり良い作品だった。
かなり厚めの文庫本で2分冊にしても十分良いくらいなのだが、また、ジェイムズならではの緻密で濃度の高い地の文がぎっしりつまっているのだが、プロットがほどよく進展していき、人物への興味もかき立てられるので、最後まで楽しく読んだ。
主人公の青年ロデリック・ハドソンが視点となっている(ほとんど「私」の)人物、ローランドに見いだされ、アメリカからローマへと移住して、彫刻家デビューを果たす。沢山の芸術家が登場し、芸術(美術)界隈の刺激的な雰囲気が描出されていくが、ローマで出会った絶世の美女クリスチーナの魅力に囚われて芸術家としては挫折し、身を滅ぼしていくという物語だ。ロデリックとクリスチーナはかなり風変わりの人間で、とりわけクリスチーナは何を考えているんだかよく分からない、謎に満ちた存在である。この点、中期以降のヘンリー・ジェイムズに顕著に見られる「視点」の技法、他者の不可解性、謎だらけで五里霧中の生活、といった特色が早くも出そろっていて驚いた。クリスチーナの結婚という最大の転機はその理由が謎のままで、ローランドらが勝手に「推測」するだけである。ロデリックとクリスチーナとのあいだに実際はどんな言動の交流があるのかも、ローランドにはなかなか知ることが出来ない。
いずれにしても人間の心理を深く追究してゆくというジェイムズのスタイルはこの最初期において既に十分な達成を見ている。最初期ということで油断してしまうが、実はかなりの傑作ではないかと思う。