あらすじ
5000万キロにわたって延びる道路、放射能で2万年後まで住めない土地、10万年後も残り続ける二酸化炭素、
化石化するプラスチックごみ、沈みゆく巨大都市、宇宙空間をさまよう人工物……
人新世が地球に刻む負の遺産とは?
私たちの文明は、未来に何を残すのだろうか? 私たちはこの地球を永遠に変えてしまったのだろうか?
スコットランドのエディンバラから、海に沈みゆく上海、汚染されたバルト海、サンゴの白化現象が進むグレートバリアリーフ、フィンランドの核廃棄物処分場などを訪れながら、我々現代人が残す「未来の化石」を紹介する。
また、生物多様性や、地球の歴史を刻む南極の氷床コアのような、私たちによって失われてしまうもの、さらには、抗生物質によって進化する細菌といった、人間によって変化してしまったものなどをも取り上げる。
現代の人類は、すぐ直後の数世代に対してのみならず、数百・数千世代のちの子孫たちに対する責任を負っていることを突きつけ、遠い未来の子孫たちに、私たちがどのように記憶されることになるのかを明示する、人新世をかつてない巨視的なスケールで描く画期的な書。
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Posted by ブクログ
「科学道100冊2021」の1冊。
著者は英文学と環境学の教授。
人類の辿った道が地球環境に与えた影響はどのようなものであったか、さまざまな文学作品への連想も絡めた思索集といったところである。
タイトルの「フットプリント」とは文字通り足跡のことで、序章は、イングランドにある、85万年前の初期人類の足跡化石の話題で始まる。アフリカ以外で見つかった人類最古の痕跡である。嵐の後、海岸で見つかったその痕跡は、そこに人類が確かに行き来していたことを明らかにし、過去から現在へと続く、人類の歴史を思わせる。
一方で、この「フットプリント」にはもう1つ別の暗示もあり、それが「カーボンフットプリント」である。人間が社会活動を営む際には、さまざまなエネルギーを必要とする。その過程で発生した温室効果ガスをCO2量に換算して考えるのがカーボンフットプリントで、つまりはざっくりと、人類が地球環境に与える負の効果の目安である。
さて、人類は輝かしい歴史を刻むのか、それとも未来に残る負の遺産を遺していくのか、というのが着眼点。
道路や都市、ペットボトルや氷床コア。サンゴ礁に核廃棄物。生物多様性に微生物。
連想される文学作品は、H.G.ウェルズやJ.G.バラードらによるSF系のものから、バージニア・ウルフ、ウィリアム・ゴールディングの著作まで幅広い。メアリ・シェリーやコールリッジ、ボルヘスやイタロ・カルヴィーノ、そしてギリシャ悲劇やフィンランドの神話まで。巻末参考文献には、科学文献に加えて文学作品も列挙されており、このあたりから拾って読んでみるのも一興かもしれない。
なかなかに不思議な世界を見せてくれるが、全体としては、著者は漠然と悲観的である印象を受ける。
21世紀の我々は、未来に何を遺すのか。
いや、我々はそもそも、「人類の未来」を遺せるのか。
揺れる社会情勢の中で、著者が予想したであろう以上の不穏な未来の可能性もちらつく。