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Posted by ブクログ
博物学・民俗学の巨人、南方熊楠は多方面で研究・文筆活動を展開しましたが、本書ではその中でも幽霊や妖怪、超常現象(超能力)といった特異なテーマにおける活動を紹介しつつ、その背景が分析されています。
熊楠は非常に筆まめな人物だったようで、学術誌への投稿もさることながら、膨大な日記も残しており、その数々が本書に引用・紹介されています。
その中には熊楠自身の幽体離脱体験だったり、死者(幽霊)との遭遇談、予知やテレパシーの経験談などなど「ほんまかいな??」と思わせる日常が紹介される一方で、日本や海外に残されている不思議な出来事に関する逸話や民俗伝承など「さすが熊楠」と思わせる浩瀚な知識も紹介されています。
しかし本書では全般的に熊楠を変人として扱ってはいません。なので彼の「変人ぶり」を期待している方は肩透かしを食うと思います。
あとがきには次のように書かれています。
「熊楠はしばしば時代を先取りしていたとか、100年早かったなどと評価されます。
しかしどんな人間も、その人の生きた時代の思潮や雰囲気と無縁には生きられません。・・・熊楠においてもまさにそうでした。」
熊楠の思考や振る舞いは、現代の私たちの目から見るとやはり確かに変人なのですが(笑)、しかし熊楠の生きた当時にあってはそこまで突飛なものではなかったことが、本書を読むとわかります。
彼の生きた時代はアメリカ・イギリスを中心に神秘主義が流行り、心霊現象研究が大真面目に、かつ盛んにおこなわれた時代でもありました。
またスペイン風邪やペスト、コレラも蔓延し(熊楠自身やその家族もスペイン風邪に罹患しています)、疫病による死が日常茶飯事な時代でもありました。
全般的に科学技術は発達しても、ニホンオオカミと河童が同列で語られるなど、超常的な要素がまだまだ受け入れられていた時代であったことがわかります。
そんな時代にあって熊楠もこういった超常的トピックに興味を惹かれ、この分野に浩瀚な知識と精力を傾けたのでした。このような文脈から熊楠をとらえると、そう変人でもなかったことがわかります。
それ以外にも本書では熊楠が父親の厚恩に報いえなかった悔恨を、彼の文章や行動の中から分析したり、また熊楠から離れて「猫楠」の著者である水木しげるの珍行動に触れるなど閑話休題的で面白いサイドメニューも味わえます。
ちょいちょい出てくる著者の熊楠に対する突っ込みにもニヤリとしますね。
超常的なテーマに対する熊楠の活動内容だけでなく、等身大の彼の姿もまた理解できる、面白い一冊だと思います。