【感想・ネタバレ】熊楠と幽霊(インターナショナル新書)のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ 2021年02月28日

博物学、民俗学の分野で多大な功績を残した地の巨人である南方熊楠。
本書にもあるように、私自身も含めた多くの人は、水木しげるの「猫楠」での超人的なイメージが強いかもしれません。
「猫楠」でも息子の熊弥との関係は描かれていましたが、本書では父親である弥兵衛との関係や、熊楠が自身を親不孝者と思っていた節が...続きを読むあること、自身の精神状態への不安など、等身大の人間としての熊楠が描かれています。
熊楠が生きた時代はアメリカやイギリスで神秘主義が流行っていましたが、熊楠は「オッカルチズムごとき腐ったもの」としてオカルトや、宗教を装ったインチキを激しく糾弾していました。その一方で、英国不思議研究会(心霊現象研究協会)には興味を持ち、自身の幽体離脱体験などの不思議体験に対しては分析考察を試みています。
現代においてはコロナ禍における社会的不安もあり、似非科学や陰謀論が蔓延し、一部ではカリスマ的な人が詐欺まがいのビジネスを行うなど、熊楠が生きた時代と空気感が似ている気がします。スペイン風邪やペスト、コレラなどの流行り病があったことも現代と似ています。
「オッカルチズムごとき腐ったもの」が流行っている中で、流行に流されずに、冷静に自分に起こっていることを分析する熊楠の態度は、現代社会を生き抜くうえで参考になる部分があるように感じました。
熊楠は決して超人ではなく、家族との関係や、自分自身の健康や精神状態に不安を持つ、等身大の人間です。本書ではそんな一人の人間の生きざまについて知ることができる、読みごたえのあるとても面白い一冊です。
そして、ろくろ首や河童、幽霊や心霊現象などに対する熊楠の考察も知ることができて二度おいしい一冊でした。

0
ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年04月10日

 博物学・民俗学の巨人、南方熊楠は多方面で研究・文筆活動を展開しましたが、本書ではその中でも幽霊や妖怪、超常現象(超能力)といった特異なテーマにおける活動を紹介しつつ、その背景が分析されています。

 熊楠は非常に筆まめな人物だったようで、学術誌への投稿もさることながら、膨大な日記も残しており、その...続きを読む数々が本書に引用・紹介されています。
 その中には熊楠自身の幽体離脱体験だったり、死者(幽霊)との遭遇談、予知やテレパシーの経験談などなど「ほんまかいな??」と思わせる日常が紹介される一方で、日本や海外に残されている不思議な出来事に関する逸話や民俗伝承など「さすが熊楠」と思わせる浩瀚な知識も紹介されています。

 しかし本書では全般的に熊楠を変人として扱ってはいません。なので彼の「変人ぶり」を期待している方は肩透かしを食うと思います。
 あとがきには次のように書かれています。

「熊楠はしばしば時代を先取りしていたとか、100年早かったなどと評価されます。
しかしどんな人間も、その人の生きた時代の思潮や雰囲気と無縁には生きられません。・・・熊楠においてもまさにそうでした。」

 熊楠の思考や振る舞いは、現代の私たちの目から見るとやはり確かに変人なのですが(笑)、しかし熊楠の生きた当時にあってはそこまで突飛なものではなかったことが、本書を読むとわかります。
 彼の生きた時代はアメリカ・イギリスを中心に神秘主義が流行り、心霊現象研究が大真面目に、かつ盛んにおこなわれた時代でもありました。
 またスペイン風邪やペスト、コレラも蔓延し(熊楠自身やその家族もスペイン風邪に罹患しています)、疫病による死が日常茶飯事な時代でもありました。
 全般的に科学技術は発達しても、ニホンオオカミと河童が同列で語られるなど、超常的な要素がまだまだ受け入れられていた時代であったことがわかります。
 そんな時代にあって熊楠もこういった超常的トピックに興味を惹かれ、この分野に浩瀚な知識と精力を傾けたのでした。このような文脈から熊楠をとらえると、そう変人でもなかったことがわかります。

 それ以外にも本書では熊楠が父親の厚恩に報いえなかった悔恨を、彼の文章や行動の中から分析したり、また熊楠から離れて「猫楠」の著者である水木しげるの珍行動に触れるなど閑話休題的で面白いサイドメニューも味わえます。
 ちょいちょい出てくる著者の熊楠に対する突っ込みにもニヤリとしますね。

 超常的なテーマに対する熊楠の活動内容だけでなく、等身大の彼の姿もまた理解できる、面白い一冊だと思います。

0

Posted by ブクログ 2024年03月22日

知識の巨人である熊楠が、幽霊や妖怪、心霊現象をどう考えてたのか。
面白そう!と思って読んでみた。
欧米で言われるところのオカルト現象を腐ったものと言いきる熊楠。
そんな熊楠が科学の知識を認めながらも、自ら俗話や地方の説話にこだわって研究していたこと。
いかにも熊楠らしく、時には学会に発表するけれども...続きを読む自身の研究の根っこは、より知りたい、面白そう!自分が納得するまで見て、考えたいという好奇心だったのでは。

0

Posted by ブクログ 2022年09月01日

名前は前々から聞いていたが詳しく知る機会がなかったので。
熊楠という奇妙な名前が郷土に多い名前とわかり納得。
読みやすい本。

0

Posted by ブクログ 2021年05月25日

19世紀末のアメリカとイギリスに遊学し、当時台頭していたスピリチュアリズムに触れ、日本に戻ってからも東西に共通点のある怪談や伝説を集め続けた南方熊楠。時に「オッカルチズムの如き腐ったもの」と激しく神秘主義を罵りながら、自身に起きた心霊体験を自慢げに披瀝することもあった熊楠は、死後の魂や霊界をどのよう...続きを読むに捉えていたのか。手紙や日記など豊富な資料から探っていく。


熊楠が遊学した時代のロンドンは交霊会が流行し、著名な科学者たちが「心霊現象研究会」を発足させるほどであった。まだ心理学とスピリチュアリズムが一緒くたにされていた時代。無意識や阿頼耶識にまで熊楠の興味が向いたのは、地中に菌糸を張り巡らす粘菌類を研究していたことにも繋がるのだろうか。熊楠はコナン・ドイルと完全に同時代人だったことも思い起こされる。内容的に去年読んだ富山太佳夫『シャーロック・ホームズの世紀末』と重なるところは多かった。
とはいえ、熊楠にとって心霊はあくまでイギリスの科学誌で自分の原稿を採用してもらうために手をだした流行りものだったという側面もある。亡父の霊が道案内してくれた話はハッタリめいているし、千里眼の話は冗談だったのだと思う。アメリカで滞在させてくれた家の主の顔に男根の落書きをして怒られた話を離魂病の例として語っていたり、ほんとめちゃくちゃ(笑)。こんなガキ大将が結局魂の問題を突き詰めて考えることがなかったのは必然のように思う。

0

「雑学・エンタメ」ランキング