【感想・ネタバレ】ヤマケイ文庫 増補改訂版 懐かしい未来―ラダックから学ぶのレビュー

あらすじ

近代化の嵐のなか、環境破壊や自然破壊、地域社会の崩壊にどのような未来を描けるかをヒマラヤの辺境ラダックから学ぶ。

本書は、1975年、スウェーデンの言語人類学者ヘレナ・ノーバーグ=ホッジが、小チベットと呼ばれるヒマラヤの秘境、インド北部のラダック地方を訪れ、そこで目にした自然と調和した合理的な生活が近代化の名のもとに変貌していく姿を綴った記録である。
世界40カ国で翻訳されて話題を呼んだ名著の増補改訂、文庫化。

グローバリゼーションのなかで推進される環境破壊や自然破壊、地域共同体の崩壊に、どのような新たな未来が描けるのか模索する。
「文庫のための追記」でラダックの最新の現状、変化について詳細に解説。

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Posted by ブクログ

ラダックに魅せられ1975年から滞在する筆者が感じた現地の変化や心情が書かれた一冊。
時間をかけるかお金をかけるか、どちらを選ぶかが今問われています。

昔のラダックでは時間を使い、農的な暮らしを行っており、ゆとりある考えが拡がっていました。
·「倹約」はケチではなく、限られた資源を注意深く利用すること。
·下流の人を考え、灌漑用でない川では洗濯をしないこと。
·老若男女差別はなく、出来る人が出来ることを行い、例え自分の子供ではなくとも村の子供として大切に扱われること。
·「空」の哲学というものがあり、自分ひとりでは自分が成り立たないという考えがある。そのため、あらゆる物を大切に扱い、古き良き日本と似た考えを持ち合わせていること。

しかし、西洋の文化が急速に入るとラダックに変化が訪れてしまい、西洋人は彼らを貧しいと感じ、若者たちは劣等感に襲われました。
表面上(良い所)しか見えないため、限界や欠点を感じず、孤独やストレスを想像出来ないため、西洋文化が輝かしく感じてしまいます。
現代の田舎と都会の軋轢を大きくした感じでしょうか。
土地に頼ってた頃は自分は自分であったのに、お金に頼るようになり見えない支配者が現れ、格差が生まれる。
お金は個人にとっては善にも悪にもなりえますが、文化や伝統にとっては悪だと感じました。
そういった背景もあり、草の根活動が徐々に始まってきており、今現在も続いています。
急速に入ることが問題であって、西洋文化も全部が全部悪ではありません。
これはラダックだけの問題ではなく、ラダックを例にした世界的な問題と改めて痛感しました。
自分が自分であるために。田舎が田舎であるために。その勇気をもらいました。

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2025年09月19日

Posted by ブクログ

とても良い本だった。
日本を当てはめても、まさにこのとおりかと。
マスコミを始め、すべてが商業ベースで動いている今の世の中には疑問を感じています。
作者の実体験をもとに説得力のある内容でした。資本主義のシステムそのものを変えていかなければいけないと、改めて思いました。

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2024年10月14日

Posted by ブクログ

今から20年近く前、とある東北の市では市政の効果を図るのにb/c(benefit by cost)という指標を設けて、金銭に換算できない価値も何とか換算して効果を測るという無駄なことをしていた。
今思えば、馬鹿なことだと思うけど、GDPを幸福の指標としていることも、同じくらい馬鹿なことだと思う。

近代化以前の幸せなラダックの暮らしは、かつての日本にも見られたものだろう。
私の大好きな本「逝きし世の面影」に描かれた、外国人の目から見たかつての日本人も生きる喜びに溢れていたと思う。

今の私に何ができるのか、無力だなあと感じるけれど、受け身の姿勢で単なる消費者でいるのではなく、少しだけでも何かを作れる自分でありたいし、お金ばかりに頼らない暮らしを目指したい。

それにしても、こんなにも地球から収奪して暮らしていて恐ろしい。
人新生っていうけれど、道やダム、発電所や工場、果ては種まで、すべてを人工的な均質なものに置き換え、資本主義の網の目に組み込もうとする。
いつのまにか、誰もがこのシステムに組み込まれ、知らないうちに地球から収奪している。
記号にしか過ぎないお金を増やすことだけが目的になってしまっている。

もっといい在り方があるはず。

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2023年05月20日

Posted by ブクログ

インドのラダックというところに行ったスウェーデンの人のお話。
経済成長、科学の進歩が正義という神話はフィクションで、人間が作り出したもの。
この神話が抱える自滅への道は、みんなうすうす分かってるんじゃないかな。
人と人、人と自然との繋がりを取り戻すことが、持続可能な社会を作るためのカギ。
そして、それが“人間らしく”生きるということなんだろうな。


・ラダックの人たちはそれぞれの仕事を成し遂げるのに、ほんの簡単な道具だけを使い、とても多くの時間をかける。
緊密な関係の上に成り立っている共同体の一員であることが、深い安心感をもたらしている。
・どの農民も完全に近い自給自足をしているため、自律性が高く、共同体としての意思を決定する必要はほとんどない。
・いかなる裁判制度も完全ではありえないが、住民同士が話し合い、草の根レベルで問題解決を可能にするような、緊密な関係で結ばれた小規模の共同社会に基づくほど効果的なものはない。
・百戸を越えるような大きい村はまれなので、相互依存の関係を直接体験できる程度の規模の生活になっている。全体像がつかめ、自分自身がその一部である社会の構造やネットワークが理解でき、自分の行動がおよぼす影響が見えるので、責任を感じることができる。
・ラダックの人々は幸運にも、個人の善が共同体全体の善と矛盾しない社会を受け継いできた。ある人の利益はほかの人の損失を意味しない。
・日常的に関係が持てる規模が柔軟性を許容している。
・一妻多夫性が望ましい結婚の形態であるとはいえ、おもしろいことにそれだけが唯一の形ではない。こうした通常と違う形態は、おそらく少ない資源への慎重な適応の表れだろう。共同体の中の関係を柔軟に保つことによって、土地との関係を最適に維持することが可能になる。
・小さな赤ん坊から曾祖父母まで、あらゆる年齢層に囲まれて育つ。子どもは助けたり助けられたりという交換の連鎖の大きな関係の中で、ひとつの役割を担って大きくなる。
・ラダックの老人は、いくつになっても引きこもったり、用なし、ひとりっきりになることはない。死のその日まで、村の社会の重要な一員なのである。
・彼らは物事はこうでなければならないという考え方に固執するより、むしろ物事をあるがままに積極的に受け入れる能力が身についている。
・ラダックの人ほど落ち着いていて感情的に健康な人たちを、今まで私は見たことがなかった。そのいちばん大きな要因は、自分自身がより大きな何かの一部であり、自分はほかの人や周りの環境と分かちがたく結びついているという感覚である。
・意外にも、おそらく近代化は個性の喪失へと導いている。人びとが人目を気にし、自信を失うにつれ、理想化されたイメージに見合うように順応せざるをえないと感じる。
・古い文化は人間の基本的な欲求に応える一方で、自然の限界も尊重した。それは自然にとっても人間にとってもうまく機能していた。
・共同体や大地との親密な関係が、物質的な富や技術的な洗練などを超えて、人間の生活をとても豊かにすることができるのだということを知るようになった。

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2022年09月16日

Posted by ブクログ

☆☆☆2022年3月☆☆☆


今後人類がこの地球上で生存していくには、これしか道がないと思われる、数ある「futures」の一つ。グローバル資本主義から抜け出し、ローカルなものを大切にする。
『里山資本主義』や『人新世の資本論』で書かれていることと基本的には同じ。目の前にある人間関係やお金で換算できない価値を大切にしていかないといけない、という事だと思う。

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2022年03月16日

Posted by ブクログ

聞きしに勝る名著。
今、コロナウイルスに人間が翻弄されていることの大きな原因の一つは、ここで著者が言っているように、グローバル化しすぎた経済システムのせいだと思うし、人間と自然の関係が均衡を失ってしまっている結果だと思う。
自分たちの手でつくりあげたものなのだから、自分たちの手で変えることができるのだ。

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2021年04月10日

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